No.1
          1999. 12. 24 発行                         

  <メニュー>

     CMESの発足にあたって
     CMESの研究分野構成と研究プロジェクト
     研究分野紹介 NO.1
          化学物質のリスクから海洋生態系を守るために:生態環境計測分野
     センタースタッフ自己紹介 NO.1
          奈良正和(環境影響予測評価分野)
     沿岸環境科学研究センター設立記念式典・記念講演会を開催
     瀬戸内海研究フォーラム
     非常勤研究員自己紹介 NO.1 速水祐一(環境動態解析分野)
     編集後記

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 CMESの発足にあたって                

     愛媛大学沿岸環境科学研究センター

           センター長 武岡英隆

  平成11年4月、学内外の多くの方々の御支援と御尽力により、愛媛大学に沿岸環境科学研究センターが設立されました。センターのスタッフを代表して関係各位に厚く御礼申し上げます。

 このセンターの名前はかなり長いので、英語名(Center for Marine EnvironmentalStudies)の略で、CMES(シーメス)と呼んでいただきたいと思います。

 CMESは、理学部より4、工学部より2、農学部より4の教官定員を移し、これらに純増定員2と学内措置の定員1を加えた13名の教官によって組織されています。これらの教官は、センターで研究に従事するほか、元の学部を兼務して従来通りの教育を行うことになっています。また、CMESの設立に伴い、中島にある元の理学部附属臨海実験所はCMESの附属施設となり、中島マリンステーション(NMS)と改称されました。

 CMESは、沿岸海域における環境科学の総合的推進と地域社会への貢献を目的とした本格的研究センターで、物理的な海水の運動や物質輸送過程などを研究する環境動態解析分野、環境ホルモンなどによる汚染や生物影響を中心に研究する生態環境計測分野、プランクトンやバクテリア等を中心とした海の生態系について研究する生態系解析分野、海底堆積物や底生生物を研究する環境影響評価予測分野、の4つの研究分野から構成されています。海の科学は、物理学、化学、生物学、地質学の4つの基本分野から成り立っていますが、CMESはこれらの関連分野を全て備え、バランスのとれた学際的研究を推進することができます。このような体制で沿岸域の環境科学を推進できる研究センターは我が国では他に例がなく、学内外からCMESに対して大きな期待が寄せられています。

 CMESの直接の研究対象は沿岸域の環境問題ですが、より大きな研究目標としては、地球というシステムの中で沿岸海域の果たす役割や機能を明らかにし、将来の沿岸域の環境変動を予測し、適切な対策を提言すること等があげられます。このために、沿岸環境の長期的モニター等も計画しており、本年度中に佐田岬先端部に栄養塩等の自動モニタリングシステムを設置することになっています。CMES全体で取り組む当面の具体的な研究とし大きなものは、アコヤ貝の大量斃死等が大きな問題となっている宇和海における総合的環境調査です。この研究は愛媛県との共同研究で、本年度後半より既に開始されています。その他、環境ホルモン等を中心とした海の汚染の問題や、瀬戸内海で最近大きな問題となっている海砂問題等に関しても、CMESの大きな課題として学内外と連携、協力しつつ取り組んでいく計画です。

 CMESが研究センターとして機能していくためには様々な機器の充実も必要ですが、幸いにして本年度いくつかの高額機器を導入することができることになりました。具体的には、栄養塩・プランクトン自動監視システム(栄養塩測定装置、動物プランクトンカウンター、粒子像分析装置等)、沿岸環境シミュレーションシステム(大型計算サーバ、ワークステーション等)、海洋環境汚染物質総合分析システム(高性能二重収束質量分析システム、ガスクロマトグラフ質量分析システム)、プランクトン微細構造解析システム(低真空走査電子顕微鏡、光学顕微鏡等)、フローサイトメトリーシステム、海底地形解析システム(浅海用ナローマルチビーム測深機、水路測量データ集録解析装置、底質分類装置等)、の6つのシステムです。これらの機器については学内外と協力しながら有効利用を図っていく予定です。

 CMESは、沿岸環境科学についての学術的貢献と地域社会への貢献という役目を負っていますが、これらを通じて愛媛大学の個性を表現するという、いわば大学の看板としての役割も背負っています。また、瀬戸内海という地域のみならず、アジアの沿岸域にも研究を展開していくことも目指しています。これらの大きな役割を果たしていくためにはCMESのスタッフだけでは不十分で、学内外からの御支援、御協力が是非とも必要です。何卒、よろしくお願い申し上げます。

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  CMESの研究分野構成と研究プロジェクト                 

 沿岸環境科学研究センターは、以下のような4つの分野から構成されている。
環境動態解析分野
  教授/武岡英隆(海洋物理学、沿岸海洋学)
  助教授/郭 新宇 (海洋物理学)
  助手/兼田淳史(沿岸海洋学)
 
 海水流動とそれに伴う物質の移動・拡散機構の解明:地球環境変動に伴う沿岸域の栄養塩環境の変動の長期的モニタリング、貧酸素水塊や赤潮などの発生機構の解析、養殖漁場の物質循環と環境変動の解析、沿岸域開発に伴う環境影響の解析等、沿岸環境の短期的、長期的変動機構に関する研究

生態環境計測分野
  教授/田辺信介(環境化学、生態毒性学) 
  助教授/岩田久人(環境毒性学)(平成12年   4月着任予定)
  助手/國頭 恭 (環境化学)

 有害化学物質の生態系内における動態解析:環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)を含む有害物質(有機塩素化合物、農薬、重金属類など)を対象に、沿岸域における汚染の計測と挙動や長期変動のモニタリング、高等動物を頂点とした生態系への蓄積と生物濃縮機構の解明および免疫機能や生殖機能の撹乱、発ガンや催奇形性などの毒性影響に関する研究

生態系解析分野
  教授/川端善一郎(生態系生態学、水圏微生物生態学)(平成12年3月まで併任)
  助教授/上田拓史(プランクトン学、海洋生態学)
  助教授/中野伸一(生態学、微生物学)
  助手/金本自由生(魚類生態学、海草分布生態学)

 生物群集調査に基づく生態系動態の解析:生物群集の短期的長期的モニタリングに基づく生態系ダイナミクスの解析、環境変化による生物の応答、環境と生物の相互作用、生物間の相互作用等の解析、植物プランクトンによる海域の基礎生産機構と基礎生産力の推定、微生物による分解過程に基づく環境収容力の推定、生物多様性の維持対策、抽出された生物指標による水質モニター、藻場生物群集の動態に関する研究

環境影響評価予測分野
  教授/井内美郎(環境地質学、堆積学)
  助教授/大森浩二(ベントス学、水域生態系生態学)
  助手/奈良正和(堆積学、古生物学)

 海底及び海底境界層の解析:海底堆積物を研究の主な対象とし、堆積物の分析による過去の環境変遷史の復元と、それに基づいた将来の環境変動による沿岸環境変動の予測、底生生物を含めた堆積物中の物質循環過程の解明、堆積物の底生生物への影響、藻場や干潟などの堆積物環境の変遷とその生物生産に対する役割の解明および将来予測等に関する研究

 各分野はそれぞれの専門を基礎としているが、沿岸における環境問題の解決に堅密に連携し学際的な取り組みを行うことを基本方針としている。 この方針の元に、新たに取り組み始めた問題として現在次のものが挙げられる。

・宇和海漁場環境調査:宇和海の総合的な環境調査から漁場としての実体を把握し、その持続的利用について検討する。
・環境ホルモン調査:現在問題となっている環境ホルモンの愛媛県における濃度分布を集水域も含めて把握し、生態系内における動態を明らかにするためのモニタリング体制の確立を検討する。
・海砂採取問題:海峡部及びその周辺海域における砂堆の生態系解析とその評価に基づき海砂採取問題を検討する。

(文責 大森浩二)

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<研究分野紹介 No. 1>                

化学物質のリスクから海洋生態系を守るために:生態環境計測分野     
    教 授 田辺信介 (環境化学)
    助教授 岩田久人 (環境毒性学)
    助 手 國頭 恭 (環境無機化学)

 ペニスが短小化したワニ、メス同士で巣作りをするカモメ、オス化するメスの貝、ウイルス感染によるアザラシやイルカの大量死などが世界各地で発生し、化学物質による内分泌系や免疫系の撹乱が強く疑われています。1996年にOur Stolen Future邦訳「奪われし未来」、翔泳社)が出版され環境ホルモンの問題が指摘されて以来、化学物質の毒性研究は内分泌系の撹乱、すなわち生殖機能の異常がもたらす次世代への影響といった新しい局面の展開を余儀なくされ、海洋環境の保全にもこの分野の研究の推進と専門家の育成が必要とされてきました。こうした社会の要請を背景に、農学部の生物環境保全学専門教育コースに所属していた環境化学研究室が前身となり、沿岸環境科学研究センターに生態環境計測分野が設置されました。

 生態環境計測分野では、環境ホルモンなど有害物質による海洋環境の汚染と生物への蓄積および影響を地域的、地球的視点で究明することが教育研究活動の中心です。また、化学物質のリスクから海洋生態系を守るための科学的方途を提言し、行政や社会の期待に応えることもこの分野の重要な役割と考えています。具体的には、PCBやダイオキシンなどの有機塩素化合物、DDTやBHCなどの農薬、TBTなどの有機スズ化合物、Cd,Hg,Pbなどの重金属類を対象に、以下のような研究課題に挑戦しています。

1) 地球規模での大気や水質汚染
2) 途上国沿岸域(とくにアジア)の汚染
3) 地域の海洋汚染(とくに養殖漁場の化学汚染)
4) 低次生態系(プランクトンや魚介類)の汚染と生物濃縮の機構
5) 高等動物(鳥類、哺乳類)の汚染と生物濃縮の機構
6) 汚染物質暴露に反応する生体内分子の検索
7) 毒性発現の分子レベルでの機序解明(内分泌系、免疫系、薬物代謝酵素系)
8) 水産資源がもたらす人体の汚染と健康影響評価
9) 海洋汚染の過去復元と将来予測

 世界の注目を集めた最近の研究として、環境ホルモンによる海洋汚染が地球規模で拡がりイルカや鯨の汚染レベルが異常に高いこと、またこの種の動物の解毒機能はきわめて弱いため化学物質のリスクが最も懸念されること、などを明らかにした成果があります。類似の研究は、他の哺乳類や野生の鳥類、ウミガメ類などでも展開しており、これらの成果を通して地球環境時代にふさわしい生態系本位の環境観を社会に定着させることができればと考えています。

 環境は複雑で多様な系から構成されているため、特定の場のみに注目した研究は時として理解が浅薄になり、場合によっては誤った結論を導いてしまうことがあります。生態環境計測分野では、化学物質による汚染や影響を広い視野で理解することを研究の基本方針としています。したがって、化学物質による汚染や生態影響が顕在化している場があれば、国の内外をとわずフィールド調査を実施し、影響があらわれている生物だけでなく他の種も含め多様な環境試料を採取することにしています。研究室のフィールドは、北極から南極まで、先進国はもちろん世界の途上国にまで広がっており、毎年延べ20数名の研究室学生が調査や研究成果発表のため海外にでかけています。

 現在、研究室には、教官3名(1名は米国に留学中)の他に客員研究員1名、博士課程学生7名、修士課程学生14名、学部学生13名、合計37名が在籍している大所帯です。この中には7名の外国人留学生が含まれており、その出身国は韓国、中国、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ブラジルと国際色豊かです。また、日本人学生の出身校もさまざまで、大学院学生の半数は他大学からの入学者です。

 研究の成果は、論文や講演発表などを通して社会へ還元しています。平成10年には、著書および学術論文32編(英文26編)、学会発表82編(国際会議36編)、その他雑文18編、合計132編の成果を報告しました。

 研究室では、勉学研究を通して新しい科学的事実を発掘し、世界初の評価を受ける快感を多くの学生に味わって欲しいと思っています。また、知の連帯によって集団化した研究室で個々人が可能性や潜在能力をみいだし、21世紀の環境展望が語れる人材、地域社会や国際社会に貢献できる人材、組織のチームリーダーとなりうる人材を多数輩出できればと考えています。

(文責 田辺信介)

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 <センタースタッフ自己紹介 No.1>           

 奈良正和(環境影響予測評価分野) 

 すこし時季はずれな話題になりますが、潮干狩りなどで干潟や砂浜を歩いたことがある方は大勢おられると思います。その時の様子を思い出してください。アサリなど獲物がいそうな場所を探して砂浜や干潟の表面を見たとき、そこにたくさんの小さな穴があいていたのに気がつき不思議に思ったことがあるかも知れません。これらの穴は、じつは多毛類や甲殻類など海底堆積物の中にすむ動物(埋在動物)が住んでいる巣穴なのです。海岸や海底の堆積物の中には、あまり私たちの目に触れることはありませんが、実に多くの埋在動物たちが暮らしているのです。ゴカイやユムシなど、釣り餌を採るために堆積物を深く掘りかえしたことがある人ならご存じでしょう。この埋在動物たちは、上記のように海底面に出入口を開けた巣穴に住んで海水中に懸濁する有機物片や小型生物を濾しとってたべたり、あるいは堆積物中に含まれる有機物、小型生物あるいはバクテリアを食べるために堆積物をさかんにかき回したりしながら生活しています。こうした埋在動物の行動は海水を浄化したり、底泥の腐敗を妨げたりする事に役立っているとも言われます。私の研究対象のひとつは、こうした埋在動物たちの生態です。それらの生態は、海底面の上にすむ表在動物のそれと違い、直接観察することがむずかしく未知の事柄がたくさんあるためです。現在、とくに興味を持っていることは、潮下帯以深の環境、なかでも沖合の砂堆にすむ埋在動物の生態です。そこにすむ動物たちが、堆積物の浸食や堆積にともなう環境撹乱に、どの様に対処しているのかを明らかにしていこうと思っています。

 もう一つ大きな興味をいだいている研究分野が、こうした生態学的研究を過去にさかのぼって適応していく古生態学の分野です。現在の地球表層に見られる多様な生態系は、ある日突然その場所に出現したものではなく、長い地球-生命系の歴史のなかで形成されてきたものです。したがって、過去の生態系とその変遷の過程をくわしく知ることで、現在のものをよりふかく知ることができるのです。じつを言うと、こちらの方が私の得意とする分野なのです。

 なかでも今もっとも興味をいだいているのは、新生代第四紀に活発化していた、氷河性海水準変動という全地球規模の環境変動が引き起こした海進-海退が、海底の生態系にいかなる影響を与えてきたのか明らかにする、というテーマです。この海水準変動は最短数万年周期でその振幅100m以上にも達するきわめて激烈なものでした。それにともなう海進-海退という現象は、海底の面積を変えるだけでなく、その各フェーズに特有な堆積システムを発達させたことが知られています。その際の海底環境の急激な変化は、生態学的観点から見ると、生息地の水深、水温、そして海底に攪乱をおこす堆積作用や、生物の餌となる有機物の生産・運搬様式といった環境条件のダイナミックかつ広域的な変化として捉えることができるので、海底生態系にきわめて大きな影響をおよぼしたに違いないからです。しかし、この様な観点からは、世界的に見ても殆ど研究がなされていなかったのです。

 最近、千葉県房総半島にあるこの時代の地層と化石をしらべたところ、今から約45万年前、更新世中期の房総半島(当時は海岸から浅い陸棚の環境でした)では、急速な海進による環境変動の結果、現在の海底ではまったく見られないようなユニークな底生群集が存在していたことが明らかになりました。現在も地域や時代を変えてこのテーマに関するデータを集めています。

 こうした地層と化石の解析から復元される遠い昔の出来事は、一見、現在の沿岸域の研究とは直接関係しないようにも見えます。しかし、じつは私たち人類が近い未来に直面する可能性の高い、地球温暖化による急激な海水面上昇にともなう環境影響を予測をする上で、世界的に見ても貴重な基礎データとなると思っています。

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沿岸環境科学研究センター設立記念式典・記念講演会を開催 

  7月16日、松山全日空ホテルにおいて沿岸環境科学研究センターの設立記念式典が催されました。式典には学内外の関係者ら約250名が出席、鮎川学長がまずセンター設立にあたっての関係各位の支援に対して感謝の意を表し、「本研究センターが、沿岸環境科学の研究を中心として、世界に発信し、社会に貢献するセンターになることを願っています」と式辞を述べ、今後の更なる支援を要請されました。つづいて来賓の加戸守行愛媛県知事、中村時広松山市長、工藤智規文部省学術国際局長、遠藤保雄環境庁水質保全局長(代読)から祝辞をいただきました。各来賓ともそれぞれの立場から沿岸環境科学研究センターに対して熱い期待を寄せられ、センターのスタッフとしてあらためて責任の重さを感じさせられました。祝辞に続いて、祝電披露、武岡センター長からのセンター紹介があり、センターの各分野の内容がパソコンからの映像を用いて説明されました。

 式典終了後、同会場にて2題の記念講演が行われ、前海洋学会長で東京大学海洋研究所の平啓介所長から「海と地球環境」、前香川大学長で瀬戸内海研究会議の岡市友利会長から「世界の閉鎖性海域における環境保全対策」と題した講演が行われました。

 平先生の講演では、前半は1989年から1990年にかけて行なわれた東京大学海洋研究所白鳳丸の世界一周航海のデータから世界の海の水温構造について話され、後半は、世界海洋観測システムにもとづく海洋予報について話題提供されました。白鳳丸の世界一周航海ではXBTという使い捨ての温度計で深海までの温度が測られ、紅海、地中海など航路になった海洋の水温分布の特徴が説明されました。また、四国沖に設置された観測ブイのデータから、表層100m以浅で水温が季節的に変化することが示されました。後半の海洋予報については、まず、ユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)による世界海洋観測システム(GOOS)の内容が説明されました。観測方法として詳しく紹介されたのは、地球磁場と海流によって電話海底ケーブルに発生する起電力を測定することによって海流の強さを知る方法で、すでに沖縄〜ルソン、福岡〜対馬、浜田〜釜山などの間で観測が行われており、昨日インターネット上に公表されたという福岡〜対馬間のホットなデータの紹介もありました。さらに、一定の深さにとどまり、10日ほどの間隔で自動的に浮上してデータを送信してくる観測フロートを全世界で3000個投入する計画もあり、GOOSによる世界の海洋予報が現実になってきていることを実感させられました。

 岡市先生は、平先生の地球規模の話とは逆に、瀬戸内海をはじめとする人類のとってより身近な閉鎖性海域の環境保全について講演されました。まず、瀬戸内海が世界の閉鎖性海域の中でもとくに生産性の高い海域であるにもかかわらず漁業就労者の減少などにより漁獲量が減少していること、瀬戸内海の赤潮はひと頃より減少してきたが1990年代に入ってからヘテロカプサ・サーキュラリスカーマなどの毒性の強い新しい種類の赤潮プランクトンが増えてきたことなど、瀬戸内海の抱える現在の問題を説明されました。とくに赤潮については、最近北米東海岸で脅威の的になっているフィエステリアという有毒鞭毛藻について、その被害内容や魚類を殺す生態などを詳しく紹介されました。この鞭毛藻は日本ではまだ発見されていないが、北米のチェサピーク湾では過栄養と低塩分な環境が本種の繁殖要因となったと考えられており、大阪湾湾奥などには似た環境が存在するため今後日本でも繁殖する可能性を示唆されました。また、世界閉鎖性海域環境保全会議の活動を紹介され、その決議にもある住民参加型の環境保全が必要であることを指摘されました。最後に、瀬戸内海の島の重要性を文化的、自然的側面から訴えられ、産業廃棄物の埋め立てで有名になってしまった豊島も埋め立て地は島のごく一部でしかなく、大部分の海岸には見事な藻場が広がっていることを示して、豊島のイメージ回復を訴えられました。

記念講演会の後、同ホテルで祝賀会が催され、センター設立を祝して三木前学長の音頭で乾杯が行なわれました。アトラクションとして愛媛県久万町から招かれた勇壮な「久万山五神太鼓」が披露され、和やかな雰囲気の中で歓談が続きました。

(文責 上田拓史)

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瀬戸内海研究フォーラム                

 瀬戸内海研究会議の主催により瀬戸内海フォーラムが8月26、27日にメルパルク松山において開催されました。本フォーラムは、瀬戸内海の環境保全をテーマにして瀬戸内海沿岸の各地で毎年開催されております。第8回目となる今年のメインテーマは、「瀬戸内海環境の長期変動と将来」でした。CMESは本フォーラムに協賛するとともに、多くの教官が研究成果をもとに話題提供を行いました。

 フォーラムは4つのセッションで構成されており、各セッションのテーマは「自然環境の長期変動」、「海砂問題」、「水産業の将来」、「しまなみ海道と地域活性化」でした。第1セッション「自然環境の長期変動」では、物理、化学、生物を専門とする研究者がそれぞれの視点から瀬戸内海の環境およびその変化について講演を行い、第2セッションでは海砂採取をめぐる環境問題がテーマとして取り上げられました。第3セッション「水産業の将来」では、養殖場の環境管理、後継者の育成など水産業が抱える問題に対する取り組みについて、研究者や瀬戸内海で漁業を営んでいる方が講演を行いました。第4セッション「しまなみ海道と地域活性化」では、しまなみ海道の開通で大きく変化した瀬戸内の地域交流に関する講演がありました。

 瀬戸内海の環境は人間活動の影響を受けやすく、その環境問題の要因は多岐にわたっているため、問題の解決には自然科学はもとより、人文、社会科学も含むあらゆる分野の知識が必要です。講演内容が幅広い分野にわたっていた本フォーラムは、瀬戸内海の環境を考える絶好の機会となりました。また、講演者に対する会場からの質問も多く、瀬戸内海の環境に対する関心が非常に高いことを感じました。各セッションの座長、講演者および演題は以下の通りです。

第1セッション「自然環境の長期変動」(座長:柳 哲雄 九州大学応用力学研究所教授)

1.外洋から瀬戸内海への栄養塩の流入とその最近の変化
    武岡英隆 愛媛大学CMES教授、センター長

2.藻場の変化
    寺脇利信 水産庁瀬戸内海区水産研究所藻場・干潟生産研究室長

3.赤潮生物の変化
  上田拓史 愛媛大学CMES助教授

4.底質から見た栄養塩環境の変化
  門谷 茂 香川大学農学部教授

 第2セッション「海砂問題」(座長:川端善一郎 京都大学生態研究センター 教授、愛媛大CMES 教授(併任))

1.瀬戸内海周辺地域におけるコンクリート用砂の供給動向
  有田正史 通産省工業技術院地質調査所統括研究調査官

2.海砂利採取の生態系への影響過程
  松田 治 広島大学生物生産学部教授

3.海砂資源の科学的位置づけ
  井内美郎 愛媛大学CMES教授

 第3セッション「水産業の将来」(座長:玉井恭一 水産庁瀬戸内海区水産研究所赤潮環境部長)

1.養殖漁業の適正化−沿岸生態系の持続的利用法
  大森浩二 愛媛大学CMES助教授

2.水産業と環境ホルモン
  田辺信介 愛媛大学CMES教授

3.魚類養殖業の現状と将来の課題
  古谷和夫 (社)全国かん水養魚協会会長理事

4.これからも漁業を続けるために自分達にできること
  藤本二郎 宮窪水産研究会会長

 第4セッション しまなみ海道と地域活性化(座長:戸田常一 広島大学地域経済システム研究センター教授、センター長)

1.しまなみ海道の整備の経緯と地域交流の事例
  牧 哲史 建設省四国地方建設局松山工事事務所所長

2.しまなみ海道が観光に及ぼす影響
  北本政行 運輸省四国運輸局企画部長

3.しまなみ海道による地域の交流と連携の可能性
  朝倉康夫 愛媛大学工学部環境建設工学科教授

(文責 兼田敦史)

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 <非常勤研究員自己紹介 No. 1>   速水祐一(環境動態解析分野)

  1967年京都生まれ。京都大学農学研究科博士課程を修了後、日本学術振興会特別研究員、愛知県職員(愛知県栽培漁業協会)をへて、11月より現職。専門は陸水学・沿岸海洋学。湖や沿岸海域における流れと物質輸送についての研究です。手法的にはデータ解析、係留系・CTDタイプのプローブによる流速・水温の現場観測、数値実験、水質分析により、成層した水域における波や流れ(内部波・密度流)と混合過程、酸素や窒素・リンなどの輸送、気候変動に関連した湖沼水温・水質の長期変化に関して研究を進めてきました。今後は、さらに数値シミュレーションの技術を学び、主に低次生産者を対象にした生態系のモデル化もできるようにしたいと考えています。これまでの主なフィールドは琵琶湖で、大学院では琵琶湖において強風が引き起こす内部波に関して研究していました。他にこれまで研究対象にしてきた水域は、舞鶴湾、中海・宍道湖、池田湖、フブスグル湖(モンゴル)で、他に大阪湾、伊勢湾、五ヶ所湾、丹後海などの調査にも参加してきました。

 農学部水産学科の出身であり、もともとは海の物理学自体よりもそこに住んでいる生き物への興味がこの世界に入るきっかけでした。また、基礎だけではなく、漁業の現場に、あるいは水域の環境マネジメントに役立つような応用研究の必要性を強く感じています。非常勤研究員の任期は限られているのであまりユニークなテーマにはトライできませんが、長い目でみると、物理・生物のinteraction、そして水圏の生き物の生態に関したものへと研究をシフトさせていけたらと思っています。

 これからは、豊後水道、伊予灘を中心にした瀬戸内海が主なフィールドになります。この水域では、私がこれまで触れてきた水域に共通した、富栄養化、貧酸素といった問題とは別の問題を抱えているようです。また、閉ざされた系である湖や閉鎖性の強い内湾奥に起きる現象は比較的理解しやすいものが多いのですが、外に開かれた系で、しかも複雑な地形をもった瀬戸内海西部では、これまでの私の常識にくらべてはるかに複雑な現象が起きているようです。琵琶湖や大阪湾などにくらべると、この海域についてはこれまでにおこなわれてきた調査・研究の量も少なく、まだまだわからないことがいっぱいありそうで、楽しみです。

 趣味は山登り。春は山菜、夏は釣り、秋はキノコを探しながら沢を登るのが好きです。

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編集後記:数々の苦難を乗り越え、何とかニュースレターを発行できました。今後、CMESに関わる様々な情報の発信源の一つとして、皆様にご愛読いただければ幸いです。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。(SN)
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