No.3
          2001. 2. 14 発行  

  <メニュー>

    はじめに
     「海は命―宇和島湾浅海養殖漁場環境調査報告書」が愛媛出版文化賞を受賞
     田辺信介教授、ISI引用最高栄誉賞を受賞
     研究分野紹介 No. 3 
             生物のダイナミズムから海を知る:生態系解析分野
     センタースタッフ自己紹介 No. 3          
            岩田久人(生態環境計測分野)
     『第1回漁場環境保全市民講座』を開催
     
非常勤研究員自己紹介 No.2
             永尾次郎(環境影響評価予測分野)        
     第2回CMES年次研究成果報告会
     Millennium for Microbiology
         ―シンポジウム「海洋生物における新興・日和見感染症の生態学」―
     米国訪問記―米国における河川生態系予測モデル利用の現況―)
     編集後記

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 はじめに 

 ついに21世紀に突入しました!新世紀最初のCMESニュースです。今年はいきなりの大寒波と大雪の到来があるなど波瀾含みですが、今号も内容盛り沢山でお届けします。今年のCMESも、どうぞよろしくお願いいたします。

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「海は命―宇和島湾浅海養殖漁場環境調査報告書」が愛媛出版文化賞を受賞

 
 CMESニュース2号でお知らせした「海は命―宇和島湾浅海養殖漁場環境調査報告書(発行:遊子漁業協同組合、協力:愛媛大学沿岸環境科学研究センター)」が、このほど愛媛出版文化賞の第2部門賞(自然科学)を受賞しました。同賞は、地域の出版文化の振興に貢献するため、県内在住者の著作または愛媛に関係ある著作の中から優れた出版物を表彰するもので、公益信託愛媛出版文化基金と愛媛新聞社が運営しており、今回が第16回にあたります。CMESはこの報告書の編著者として同賞を受賞しました。受賞の主な理由は、地域の環境に学術的に正面から取り組み、産業の育成、地域社会の創生に大きなインパクトを与えたことです。また、漁協と大学が直接協力して行ったユニークな研究体制も高く評価されたました。

 「1月5日付愛媛新聞、賞選定理由より: ・・・多くの新しい発見と重要な概念の構築があるこの報告書は、養殖漁業には科学の力が必要であり、適正な養殖の実現には基礎となる海の環境から調査しなければならないという遊子漁協古谷和夫組合長の高い見識と、それに共感する漁協組合員の協力の下に、大学の研究者、学生が研究を進めた成果の集大成である。この研究は、地域社会と大学との共同作業の面で、今後の学術研究のあり方の一つとして示唆に富む意義深いものがあり、愛媛大学に平成11年4月に設立された「沿岸環境科学研究センター」には、この調査に携わった研究者のつながりがその核となったことも特筆すべきことである。・・・」

 長年にわたりこの研究を支えて下さった遊子漁協および関係者の方々、研究に協力して下さった学生諸氏に、厚く御礼申し上げます。

 これらの一連の研究はこの報告書の発行によって終わるわけではありません。実際にこれらの研究成果が地域に行かされるのはむしろこれからであり、なすべき研究もまだまだたくさん残っています。CMESは今後も関係各方面と協力して、この分野の研究に取り組んでいく予定です。(文責 武岡)

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田辺信介教授、ISI引用最高栄誉賞を受賞

 当センター生態環境計測分野の田辺信介教授が、世界最大の学術論文データベース制作会社であるISI社(アメリカ)から、世界的に影響力の大きい論文を数多く発表した科学者に送られるISI引用最高栄誉賞を受賞しました。この賞は、1981年から1998年の18年間に発表された学術論文のうち各分野で1年間に引用回数の多い上位200論文(ハイ・インパクト論文)を抽出し、これら論文の中から13報以上を書いた日本の科学者30人に対して送られるものです。田辺教授の場合は、海洋・大気環境システムにおけるPCBやダイオキシン汚染の影響についての研究が評価され、環境化学分野において16報がハイ・インパクト論文として選ばれました。田辺教授は、現在は野生生物の有害化学物質汚染についての感受性を分子生物学的手法を用いて遺伝子レベルで解明する研究を進めており、将来は生命科学や情報技術を用いて人の化学物質汚染を野生生物の異変から監視するシステムを確立しようとしています。同教授のこれからのますますの御活躍を期待します。(文責 中野)

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<研究分野紹介 No. 3>

生物のダイナミズムから海を知る:生態系解析分野

教授 鈴木 聡(生態系生化学、環境分子生物学)
助教授 上田拓史(プランクトン生態学)
助教授 中野伸一(水圏微生物生態学)
助手 金本自由生(海洋生態学)

 当分野はスタッフ4人の部門で生物を中心に生態系を研究しているが、教育担当が農学部と理学部にわたっており、内容も魚類からプランクトン、微生物、果ては溶存態分子と多岐にわたるため、研究体制としては鈴木・中野研、上田研および中島マリンステーションの金本研の3つに分かれている。以下に各研究室の状況を紹介する。 

鈴木・中野研:海洋物質循環で質・量ともにもっとも重要な機能を持つ生物は微生物である。よく知られている捕食食物連鎖の他に微生物食物連鎖(Microbial loop)が発見されて以来、海洋生物の生態学と元素レベルの地球化学を結ぶ分野として微生物生態学が注目されているが、まだ研究者人口も少なく、研究の進展も飛躍的とはいいがたい。

 そのような状況のなか、当研究室は微生物を中心とした生態系を生態学と分子生物学の視点で研究している。このようなアプローチをしている研究グループは今は世界的にも少ない。「今みんながやっていることには興味ないね。そんなことはもうとっくの昔にやったよ。今は5〜10年後を見据えているからね。」というポリシーの我が研究室は自信をもって新しい未知の試み・テーマにチャレンジしている。  中野は主に細菌から鞭毛虫、繊毛虫、動物プランクトンへと繋がる食物連鎖を中心に研究している。フィールドは宇和海はじめ淡水池、河川にまで及んでいる。Microbial loopでの物質循環の研究と同時に宇和海の生産力評価に直結した調査も行っ ている。

 鈴木は海洋溶存態高分子の由来と代謝に関わる微生物活性の研究、およびアコヤガイをはじめとする魚介類の日和見感染ウイルスの生態研究を行っている。非常勤研究員の生地も細菌タンパク質関連の研究をしており、それ以外には赤潮微細藻に感染するウイルスの研究も行っている。

 本研究室は2000年度に新しくできた研究室といっていいが、すでに1年で新しい発見をいくつかしており、今後も加速的に動いていくことが期待できる。このエネルギーは優秀な学生諸君に由来するものである。学生は2000年度は博士課程3名、修士課程10名、農学部卒論生6名および高知大卒論生4名が在籍し、彼等は日々アクティブに、正しくは騒がしく、研究に励んでいる。修士学生は修了までに必ず1報は英文論文を投稿すること、がノルマであり「仕事は決めた時間内に完成させること。時間は有限である。」という人間社会では当たり前のセンスで研究室は動いている。毎月1回飲み会をしているのも本研究室の特徴であろう。         (文責 鈴木)

上田研:プランクトンをはじめとして、あらゆる水族生物の組成(生物相)はその水域の環境を反映した結果であり、それゆえ、生物相は環境を測る「ものさし」である。当研究室では、水域環境のより正確なものさし作りを目指して、プランクトンを中心に水族生物の種生態、群集生態、生物相、および問題のある生物群の分類を研究している。現在、研究室として進行中のテーマは「宇和海養殖湾におけるプランクトン群集の解析」、「瀬戸内海の浮遊期ナメクジウオの生態学的研究」、「諫早湾における堤防閉鎖後の動物プランクトン群集解析」、「沿岸性優占カイアシ類Paracalanus parvuss.l.の分類学的検討」、「有明海におけるカイアシ類未記載種の分類学的研究」などである。次年度には、「河口・内湾域における動物プランクトン群集の分布生態」を新たな研究テーマとして計画している。また、淡水産優占浮遊性カイアシ類であるMeso/Thermocyclopsのモノグラフ作り、カイアシ類DNAデータベース作成といった分類学的テーマを国際共同研究として続けている。学生は理学部生物地球圏科学科生物系所属の卒論生6名と同系所属の課題研究学生(3回生)1名をかかえ、卒論生のうち2名が大学院に進学し当研究室に残る予定。上記以外の卒論独自のテーマとしては、「愛媛県沿岸のカイメン動物相の研究」、「松山近郊の湧水池におけるプランクトン相の研究」があり、それぞれ緻密な記載的研究を行い、新しい発見がなされている。(文責 上田)

金本研:生態系解析分野に所属しているが、当研究室は中島マリンステーション(NMS)にあり、以前は理学部附属臨海実験所で、当研究室に来るには、本学から2千円以上かかり、よほどの金持ちか、高い志を持った学生しか来ないが、今のところ前者には御目に掛かったことがない。潜水調査を主とした野外研究が当研究室の特徴であるが、NMSは潜るフィールドがない、真水がない、交通費と時間が掛かり過ぎると正に三重苦状態である。それでも、卒論の4回生2名、課題研究の3回生1名の3名の理学部学生が、当研究室に所属している。

 主な研究テーマは1.アイナメ科魚類の分布生態、2.アイナメ科魚類の繁殖生態、3.沿岸魚類の生活史、4.海草の分布生態、5.海草藻場の経時的変化の研究、6.藻場の生態学的研究、7.稚仔魚の分布生態等を行っている。卒論生の一人はアイナメ科魚類の内臓の変化と繁殖のかかわりについて瀬戸内海及び東北で、もう一人はクマノミ類の社会生態学を沖縄をフィールドにして行っている。課題研究生は最近瀬戸内海で異常に増えたササノハベラ類について、進入経路などについて解明すべく、解明方法の習得に取り組んでいる。

 何事も、先入観なしに取り組むことが、当研究室のモットーであるが、学生達は文献などに書かれていることを信じがちである。フィールドでは教科書には書かれていない出会いが多いので、観察したことを客観的に伝えられる訓練を続けている。研究室の全員が揃うことは、滅多にないが、メールで連絡を取り合って、メールによるゼミを行うことで、お互いのフィールドワークを阻害しないことにしている。(文責 金本)

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<センタースタッフ自己紹介 No. 3>

岩田久人(生態環境計測分野)

 今年度(2000年)4月よりCMES(生態環境計測分野)の一員として研究させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。私の現在の専門分野は環境毒性学です。環境毒性学は比較的新しい学問分野で、従来の毒性学との最も大きな相違点は、毒性学が主として個体に対する影響を扱うのに対し、環境毒性学が生態系を構成する生物種の集団への影響を研究する分野であるという点です。これまでの毒性学は、主としてヒトや家畜・愛玩動物に対する危険性を予測するために発展し、したがってリスク評価もほとんどの場合、これら限定種を中心に実施されてきました。化学物質の暴露量、あるいは暴露に対する感受性が生物種間で異なっているという事実から推定すれば、化学物質汚染は、ヒトや家畜以上に、他の生物種への影響がより深刻になる場合があると想像するのは難しいことではないでしょう。残念ながら、我が国では家畜や海産物のように経済と密接に関係する生物の研究については力を注ぐものの、それ以外の種、たとえば野生生物についての大規模な調査・研究は、政治・行政・国民の関心の低さを反映して、これまで熱心に実施されてきたとは言えません。近年では化学物質がヒトを含む野生生物の生殖や免疫疾患を惹起していることを示唆する報告が増大しています。さらに、これまであまり焦点の当てられなかった化学物質がこうした疾患の一部原因であるかもしれないという研究もあります。

 そこで私はCMES着任に当たり、水圏生態系の野生生物種を対象とした二つの課題に取り組みたいと考えています。

 まず1つ目は、化学物質曝露に反応する遺伝子の探索をおこなうことです。化学物質による生体汚染や生態毒性影響を計測・評価する手段として従来主流であった方法は、対象物質を定め、特定の化学物質について生体中の蓄積量を測定することでした。確かにこのような環境化学的手法を駆使して、今日では多様な野生生物・生態系が化学物質に曝露されているという事実を我々は知りました。ところが生物は未知の物質を含む数多くの化学物質に曝されているため、対象物質を定め、それらを個別に測定する手法によって環境汚染を評価をするには限界があります。さらに、このような手法で生態毒性影響を評価するには、残留濃度から間接的に推定するしかありませんでした。一方で生物は、化学物質が体内に侵入すると、多様な遺伝子の発現レベルの増減を通して、それに反応することが近年の研究によって明らかにされつつあります。このことは、化学物質を集積する水圏生物の遺伝子を利用してその変動を調べれば、水圏生態系の包括的環境汚染の状況や、遺伝子発現に関連した毒性影響について評価できることを意味しています。さらには、毒性発現の作用機序について解析することも可能になるでしょう。しかしながら、化学物質曝露に反応することが知られている遺伝子は数少ないのが現状です。

 もう一つの課題は、毒性影響の感受性を決定する生体分子機構を解明することです。先にも述べたように、化学物質による野生生物への毒性影響は、種間で大きく異なります。この種間差を説明する一要因として、化学物質の体内侵入時に活性化されるレセプターや異物代謝に関与する酵素をコードする遺伝情報の差が考えられます。しかしながら、それらを比較生物学的に、あるいは分子系統学的に解析・機能評価した研究例は現在でもほとんどありません。従来の研究では、ラットや一部の魚類などの実験動物を用い、野生生物への影響が評価されてきましたが、こうした実験動物での生体反応が種々の野生生物種に適用できるかどうかは、依然として未検討です。こうした問題を解決するためには、毒性発現に関与する遺伝子産物の遺伝情報を系統学的あるいは生態学的に異なる野生生物種間で比較検討することが不可欠です。そこでまずは各生物種のレセプターや異物代謝酵素の遺伝情報をあきらかにし、その遺伝学的差異について評価することを試みたいと考えています。生物種間でみられる各タンパクの機能差を遺伝情報の差と関連づけることができれば、毒性影響の感受性を制御する重要なドメインや特定塩基を決定することも可能になります。また、感受性の高低を生物種間で分子系統学的に比較すれば、感受性の増加・減少を毒性学的に未知の種で予測することも期待できます。

 こうした課題に取り組むことは、これまで知られてこなかった新たな環境汚染物質を発見したり、毒性影響を分子レベルでモニターする研究に繋がると思っています。

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『第1回漁場環境保全市民講座』を開催

 沿岸環境科学研究センター(CMES)は、「守ろう愛媛の海、育てよう健全な魚介類」をテーマに、第1回漁場環境保全市民講座を平成12年9月9日(土)、宇和島市総合福祉センターで開催した(共催:愛媛県漁業協同組合連合会、後援:愛媛県、愛媛県真珠養殖漁協協議会、愛媛県真珠貝養殖漁協協議会、愛媛県かん水養魚協議会)。

 本市民講座は、CMESの研究成果を社会に還元するとともに、地域住民や漁業関係者の疑問に答え、水産業の健全な育成に寄与することを趣旨に企画したもので、CMESの中野伸一助教授による「海のしくみと生物ム宇和海のプランクトン:知られざる生態」、田辺信介教授による「海の健康診断ム環境保全型養殖漁業に商機(勝機)あり」、農学部の竹内一郎教授による「海の修復ム藻場はよみがえるか」、三重大学の和田浩濔名誉教授による「海に生きるム生き物の社会」の4題を発表した。併せて、武岡英隆センター長がCMESと愛媛県で計画し、一部実施段階にある宇和海水温情報システムについて紹介した。CMESで市民を対象とした講座は初めてであったが、愛媛県内の養殖業者、県や市町村の職員、一般市民など約300人が参加し、盛況のうちに終了した。市民講座の内容はテレビや新聞で報道され、参加者からは開催の継続について強い要望が出されるなど大きな社会的関心を集めた。 (文責 田辺)

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<非常勤研究員自己紹介 No.2>

永尾次郎(環境影響評価予測分野)

 生まれは広島県です。出身大学は北海道大学で、同大学院水産学研究科博士課程修了後、水産科学研究奨励会研究員を経て、1999年11月より現職に就きました。院生時代には、北海道南部の太平洋に面した北海道大学臼尻水産実験所に常駐して約6年間研究活動を行ってきました。専門は甲殻類十脚目の繁殖生態学です。

 これまで私は、寒海産のカニ類、特にケガニ類の成長と繁殖について研究してきました。寒海産のカニ類には、ケガニ、ズワイガニ、タラバガニ(厳密にはタラバガニはヤドカリの仲間ですが)など多くの水産有用種が含まれています。これらのカニ類は一般に寿命が長く、雌は生涯に数回の産卵を繰り返します。カニ類の雌は通常幼生が孵化するまでの間、卵を腹節(いわゆるカニのフンドシ)に抱きかかえますが、寒海産の種の場合、卵の成長速度が遅いために、抱卵期間は数ヶ月〜1年以上にもなります。

 私が研究対象にしてきたケガニ類は、北太平洋北部に起源を持つ典型的な寒海産カニの1グループです。この研究で興味深かったことの一つは、ケガニの繁殖パターンが、同様に寒海産であるズワイガニと多くの点で異なっていたことです。ケガニもズワイガニも、およそ1年間抱卵しますが、ズワイガニの雌は一旦成体になるとそれ以上脱皮することがなく、同じ体サイズのまま1年に1度産卵を繰り返します。これに対し、ケガニの雌は成体になった後も幼生を孵化させた後に脱皮するので、雌は自分の成長のために相当長い時間を必要とします。結果として、ケガニの産卵の多くは、3年に1度の間隔でしか起きないようです。また、ケガニで見られた脱皮と抱卵を交互に繰り返す繁殖パターンは、産卵間隔が短いその近縁種でも同じであることが明らかになってきました。成長しないで連続的に抱卵するズワイガニ型と、成長するために断続的な抱卵を行うケガニ型の2つの繁殖パターンは、冷水環境での抱卵期間の遅延に対する、それぞれの適応の結果として形成されてきたのかもしれません。

 最近、私が興味を持っていることの一つに、漁獲対象種で問題視されている「雌ガニにおける精子不足」があります。多くのカニ類では、雄が雌よりも大型化する傾向があり、その結果1尾当たりの価格が高い雄に漁獲がかたよりがちになります。また、資源保護の立場からも、複数の雌と交尾する能力を持つ雄よりも、幼生を送り出すことで直接再生産に貢献する雌の保護が推奨されてきました。しかし、大型の雄にかたよった漁獲を続けることは雌雄の出会いを減少させます。加えて、運良く出会えた雌雄ですら、本来大きいはずの雄が小さいために、体サイズの不一致が生じると予想されます。そのような雌雄では、雄から雌への十分な精子の受け渡しが行えない恐れがあります。このことは、京都府沖合で漁獲されたズワイガニの成体雌の半数近くが、卵を受精するのに十分な数の精子を雄から受け取っていなかったとの近年の報告からも危惧すべき問題として取り上げられています。「精子不足」が実際に起きているとすれば、適切な漁業形態を検討する上で多様な体サイズの雄の交尾能力を評価することが不可欠になります。このため、雌の産卵能力に加え、今後は雄の交尾能力を計るための知見を集積することも大切になると考えています。

 カニ類に限らず多くの海産無脊椎動物では、漁業を始めとする様々な人為的な活動が、その動物の年齢構成や雌雄の割合などに大きな影響を与えていると考えられます。しかし、それらの生物の成長様式や繁殖様式などの生物学的知見が十分に得られていることは稀であり、それらを無視した人為的な活動の多くは、その生物の急激な減少や爆発的な異常増殖を招く可能性を含んでいると言えます。そういった観点からも、生態系の現状評価や将来予測において、それを構成する生物の生活史や行動学を含む基礎的な知見を把握する必要性を強く感じています。

 私の過去の研究では、個々の生物の再生産に興味が向かうことが多く、それを取り巻く環境について強く意識することはあまりありませんでした。しかし、今日の人口の増加と産業の発展にともなう地球環境の変化は、生物の再生産の成否にも深刻な影響をもたらす可能性があり、海洋の物理・化学的環境変化が、生態系構成生物にどのような影響を及ぼしているかといった問題にも今後は目を向ける必要があると考えています。しかし、それらの解決は一元的な研究手法では到底無理であり、生物・物理・化学・地質学などの様々な分野の研究者による未来志向型のプロジェクト研究が必要になると思います。そういった意味からもCMESは、優れた研究環境を備えており、このセンターで研究できることをとてもうれしく思っています。研究員としての任期も残りわずかですが、できる限り多くのことを学び取りたいと考えています。

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第2回CMES年次研究成果報告会

 第2回沿岸環境科学研究センター年次研究成果報告会が、今年度も開催されます。本報告会は年に一度、年度末に開催されることになっており、学内の教官や学生、学外からの参加者など、沿岸環境に関心のある方なら、どなたでも大歓迎です。今年度も、地質学、生物学、物理学、化学といった幅広い分野にわたる研究成果が報告され、活発な議論がなされることが期待されます。

なお、CMES年会の開催日時・場所、1月12日現在の各分野の発表タイトル(仮題)は、以下の通りです。皆様、万障お繰り合わせの上、奮って御参加下さい。 

日時:平成13年3月6日、午前9:30より
場所:愛媛大学工学部4号館、18番講義室
参加費:無料

 環境動態解析分野:
・豊後水道底層から佐伯湾への栄養塩供給機構
・佐田岬における栄養塩環境の長期自動モニタリング
・瀬戸内海における多層構造の形成機構
・瀬戸内海の潮汐・潮流モデル

 生態環境計測分野:
・三陸沖および北太平洋外洋域で捕獲した鯨類と鰭脚類におけるブチルスズ化合物汚染の経年変動
・鰭脚類および鯨類における有機塩素化合物蓄積の経年変動
・Contamination and Specific Accumulation of Persistent Organochlorines inJapanese Humans
・海棲哺乳類および鳥類におけるダイオキシン類の蓄積と肝チトクロームP450の誘導

 生態系解析分野:
・諫早湾潮止め後の淡水化に伴う動物プランクトン相の変化
・宇和海における薬剤耐性菌の多様性
・宇和海における溶存各態リンの季節動態と細菌・植物プランクトンによるリンの利用
・亜熱帯海草藻場の生態学的研究

 環境影響評価予測分野:
・バブルパルサーを用いたひうち灘海底地質調査結果
・微生物・底生藻類による底泥の安定化とマクロベントスによる撹乱作用
・ 北条沿岸域における生態系解析
・ 愛媛県中島町周辺海域の最近1万年間の古環境変遷

(文責 中野、武岡)

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Millennium for Microbiology―シンポジウム「海洋生物における新興・日和見感染症の生態学」―

 鈴木 聡(生態系解析分野)

 西暦2000年を記念してオーストラリア微生物学会とニュージーランド微生物学会の共同主催によりオーストラリアのケアンズで国際微生物学会が2000年7月8日から13日まで開催された。このなかで、日本から二つのシンポジウムがオーガナイズされた。一つは"What are marine bacteria?"(コンビーナ:東大・木暮一啓、近大・江口充)。もう一つは北大の吉水守氏と筆者がコンビーナをした"Ecology of emerging and opportunistic virus infection in marine animals"である。本稿では後者について報告する。

 栽培・養殖用種苗の無秩序な国際的移動が頻繁に行われるようになり、さらに、従来知られていなかった新興感染症も世界各地で見られるようになって、その拡大が危惧されている。一方で、地球温暖化・環境汚染などの環境要因は日和見感染症を増加させる引き金になっている。このような状況から、21世紀にはいって水棲生物の疾病問題は益々大きくなると予想される。本シンポジウムは将来を睨んだ企画と言えるだろう。

 演者は5人で、まず、私がアクアビルナウイルスのアコヤガイ中での感染様式の季節変化と宿主域について述べた。ついで、広島大の西沢豊彦氏は多くの海産魚から分離されるノダウイルスの分子進化と150年前にさかのぼるウイルス変異について紹介した。これら2題は宿主域の広いウイルスが何十年かの周期で変異して再興感染症を起こす可能性に警鐘を鳴らした。また、Scott LaPatra(米国)はラブドウイルスに対するDNAワクチンの成功例を発表した。ウイルス病には薬剤が実用化されていないので、今後日本でもDNAワクチンによる魚病制御が有効であろう。さらに、オーストラリアのRichard Whittingtonは天然のイワシを大量へい死させたヘルペスウイルス病を紹介した。養殖魚ばかりでなく、今後は天然海洋生物でもウイルス病による大量へい死が頻発するかも知れない。最後に吉水は70年代に収束したはずのヘルペスウイルス病の再発生について述べた。同じウイルスが宿主も病原性も変えて復活した例である。ウイルス病は流行がおさまったからといって安心はできない。自らの遺伝子を変化させ、宿主をかえて、次の標的を狙っているのである。

 宇和海のアコヤガイ大量死も2000年はおさまったかのように見える。病原ウイルスは必ず宿主と共存する方向へ進化するため、一旦は病気が収束したかのように見える時期がくる。しかし、これも全く安心はできず、数年から数十年後にはまた変異したウイルスが別な病気を起こすことがよくある。アコヤガイの大量死もその例に漏れないであろう。

 病気の研究は、起こってからするのがふつうである。しかし、我々はこれから起こる病気の研究をする必要がある。目にみえない敵と戦うのは容易ではなく、またその重要性が理解されにくい。しかし、それが本当の危機管理である。今回のシンポジウムは環境科学としての魚病学を社会にアピールし、今後の魚病学の行くべき方向を示唆したものであった。

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米国訪問記―米国における河川生態系予測モデル利用の現況―

 大森浩二(環境影響評価予測分野)

 昨年10年13日から27日にかけて表題に挙げている目的でダム水源地環境整備センターの補助を受けて渡米した。日本においても新アセス法の施行に伴い、生態系の予測評価が現実的な問題となってきたが、現状はお寒い限りである。それはひとえに定量化の努力をこれまで怠ってきた生態学を専門として研究するもの達の責任である。しかし、研究者の絶対的な少なさと共に対象となる生物を含めた自然現象の極度の複雑さがその原因でもある。また、それに立ち向かうに有効な武器を持てなかったのである。今日では、高速計算機による数値モデルを利用した方法が発達しており、それを駆使すること以外に効果的な方法を考えることはできない。しかし、問題はその効果的な適用方法である。検討対象となる自然の生態系は、その要素は多くその要素間の関係性は複雑である。その全てを記述することは不可能であり、また、無意味とも言えよう。特に、低次生産過程はともかくより高次の生産過程のモデル化は現在でも困難である。今回の訪問は、日本と同様に環境保全問題の現実的な解決を必要としている米国で高次の生産過程の予測評価はどのように行われているかを明らかにするために行われた。

 今回、EPA(米国環境庁), USGS(米国地質調査所), Smithsonian Environmental Research Center, Argonne National Institute等6ヶ所の河川生態系の環境保全を取り扱うHead Quarterや研究所を訪問した。行程は、New Yorkから入国し、時差調整の後、Washington, Florida, Everglades, New Orleans, Columbia, Chicagoの各所を回り、Chicagoから出国した。

 これらの訪問の中で得られた結果について以下に紹介する。まず、結論から述べると現時点で河川生態系の高次の生産過程(魚類や鳥類個体群の動態)への環境改変による影響予測に数値生態系モデルが使われている事例はなかったということである。現在使用されている数値モデルとしては、GISにおいて任意に指定されたsubbasinの河川流量を予測するSTREAMSTATS、更に水質の予測を行うことのできるSPARROWが挙げられる。 高次の生物群に対しては、第1段階として、その生物種の好む生息場所のデータ集積を行い、点数による生息場所評価法を確立する。

 次に、対象となっている生物種の生息場所としての評価を点数により環境改変で変化する生息場所に対して行い、その生物種の個体群の存続の予測を行うという手法である。この場合、環境改変に伴う生息場所の変化予測にはPHABSIM (Physical Habitat Simulation Model) などの数値モデルが使用される。これにより、対象河道区間内の水深、流速、底質、カバー等の予測が可能のようである。

 この方法は極めて現実的なもので、多数種を同時に取り扱えるように拡張する必要はあるものの、取りあえずのものとしては有効といえよう。日本においても当分の間はこのような手法を取らざるを得ないと予想される。しかし、生息場所を減少させていけばいくほどそれに比例して対象種の個体群は一般に減少していくのである。どこまでの生息場所破壊が許されるのであろうか? その限界を決めるための科学的根拠はこの場合ないといわざるを得ない。

 ただし、現実問題に適用する過程で、例えば指標を種個体群の全数ではなく密度を用いた場合、生息場所の多様性や量が減少するに従って密度が増加し(または一定を保ち)続いて減少するようなことがあったとする。その場合、個体群密度の増加(または一定)が続く限り少なくとも対象種の飽和密度に対し環境容量(carrying capacity)に余裕があると判断できる。

 また、生息場所のタイプとその量だけではなく同じタイプでもその質を問いかける必要がある。それは、生息場所の面積が同じでもその質に従い環境容量は変化するということである。その質を問うためには、低次生産過程の取り込みとその動態を考慮した個体群動態に対するより詳細な予測が必要とされるのである。前述した多数種への拡張も単なる重ね合わせだけでは解決できない。とすると結局のところ河川生態系モデルを何らかの形で構築する必要があるということである。

 今回の研究現場の訪問で米国での環境影響評価と予測の現況をよく知ることができた。有効な河川生態系モデルの構築はやはり困難な課題であったのだ。しかし、米国のデータ集積量とその徹底した管理そして情報公開への努力には感心した。日本が学ばなければならないところであろう。

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編集後記:世の中が大きく変わろうとしているこの時代に、CMESの2年目も実に慌ただしく過ぎて行こうとしています。21世紀が皆様にとって、またCMESにとっても、大発展を迎える時代となりますことを切に願っています。                                            メニュー