No.4
          2001. 7. 20 発行       

   <メニュー>

     「宇和海水温情報システム」が本格的に稼働を開始
     研究員、客員研究員制度が発足
     <研究分野紹介 No.4>         
         海の流れは生き物たちの舞台:環境動態解析分野
     <センタースタッフ自己紹介 No.4> 鈴木 聡(生態系解析分野)
     <非常勤研究員自己紹介 No.4>   金 恩英(生態環境計測分野)
     第1回環境科学特別セミナー報告 「地球生物圏フロンティアの微生物」     
     
「第2回漁場環境保全市民講座」のお知らせ 
     3rd International Conference on Marine Pollution and Ecotoxicology参加報告
     第10回環境化学討論会報告
     センター機器紹介  海底地形解析システム
     編集後記

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●    刊行物
     
 「宇和海水温情報システム」が本格的に稼働を開始 

 豊後水道東部の宇和海沿岸では、太平洋から黒潮系の海水が流れこむ「急潮」がたびたび発生して水温が大きく変動し、海洋環境に様々な影響を与えています。CMESでは、急潮に関するこれまでの研究成果を踏まえ、愛媛県中予水産試験場、愛媛県水産試験場と協力して、「宇和海水温情報システム」の運用を開始しました。このシステムは、宇和海沿岸に設置した水温計測ブイからORBCOM衛星経由で送られてくるデータをリアルタイムでCMESのホームページ上に公開するものです。これらの水温データと、愛媛県中予水産試験場がホームページに公開しているNOAA衛星による海面水温画像を組み合わせて見ることにより、宇和海での総合的な水温情報を得ることができます。現在3測点で水温計測ブイが稼働しており、今後順次測点を増やしていく計画です。宇和海沿岸一帯では養殖を中心とした漁業が盛んですが、迅速できめ細かい水温情報は海況変動に対応した効率的な漁業の実現に役立つと考えられ、関係者から大きな期待が寄せられています。また、磯釣りなどの遊漁への利用も始まっています。
(http://www.ehime-u.ac.jp/~cmes/)
(文責 武岡英隆)
水温計測ブイ(上)と、公開されている1ヶ月の水温変化のグラフの一例(下)

水温計測ブイと、公開されている1ヶ月の水温変化のグラフの一例。5月半ばの水温急上昇は急潮の発生によるものです。この急潮の発生は、NOAA衛星画像にも明確に現れています(http://www2.ocn.ne.jp/~gyokai/noaa.htm)。ホームページには、過去1週間および1ヶ月の二通りのグラフを常時掲載しています。










●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆● メニュー       

研究員、客員研究員制度が発足

 CMESは、海洋科学の主要な分野である物理学、化学、生物学、地質学を基礎とする4つの研究分野から成り立っており、様々な問題に連携して対応することができます。しかし、環境問題はますます多様化、複雑化しつつあり、CMES外部の様々な分野の研究者との連携、協力の必要性は今後高まっていくものと思われます。そこでCMESでは、本年度より、研究員及び客員研究員の制度を発足させました。研究員は学内の研究者を、客員研究員は学外の研究者を対象としたもので、沿岸環境科学研究センター運営委員会の推薦により学長が任命することになっています。これらの研究員の方々には、CMESと協力して沿岸環境科学に関する研究を推進していただき、またCMESの機器を利用していただくこともできます。近々、およそ20名の研究員および60名の客員研究員が任命される予定です。この制度の詳細についてはCMESまでお問い合わせ下さい。
(文責 武岡英隆)

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●メニュー         

<研究分野紹介 No.4>

海の流れは生き物たちの舞台:環境動態解析分野

教 授 武岡英隆(沿岸海洋学)
助教授 郭 新宇(海洋物理学)
助 手 兼田淳史(沿岸海洋学)

 海の環境問題は生物学や化学の問題であると考えられがちです。確かに、プランクトンの異常増殖である赤潮、酸欠による魚介類の斃死、有明海のノリの問題、環境ホルモンなどの有害化学物質によって引き起こされる海洋生物の異常等の問題を考えると、水質の悪化という化学的問題が生物に悪影響を及ぼすというのが海洋環境問題の一般的な構図に見えます。しかし、潮の流れという物理的過程も海洋環境問題のあり方を決定づける極めて重要な役割を果たしているのです。例えば、ゴルフ場やテニスコートで野球をすることができないように、あるいは松の廊下でハムレットを演じるわけにはいかないように、潮の流れの速い来島海峡や鳴門海峡の海底で酸欠が起こることはまずあり得ません。つまり、海の生態系の構成やそこで起こる様々な環境問題には、それらにふさわしい舞台があるのです。潮の流れは、栄養塩や化学物質の移動、拡散、集積などを通してそれらの濃度を決めたり、植物プランクトンの成育に必要な光の条件をコントロールしたりして、生き物たちの様々な舞台を作り上げている訳です。したがって、潮の流れという物理過程の理解なしに海洋環境問題をきちんと理解することはできません。このような潮の流れを中心とした物理過程が生態系や環境問題とどのように関わっているかを明らかにすることが、当研究分野の中心的な研究課題です。
 当分野が直接の研究対象としている海域は、瀬戸内海、豊後水道・宇和海、四国九州南部から東シナ海に至る黒潮域です。これらの海域を、様々な現地調査や数値シミュレーションなどによって研究しています。特に豊後水道・宇和海に関しては、この海域で我が国最大規模の養殖漁業が行われており、様々な問題を起こっていることや、複雑な地形であることに加えて瀬戸内海と太平洋の接合域であることが変化に富んだ自然条件を生み出していることのために、これまで精力的な研究を行ってきました。本ニュースの別項でご紹介した「宇和海水温情報システム」は、これらの研究成果を社会に還元すると共にさらなる研究の発展を目指して運用を始めたものです。また、これらの研究を通じて、瀬戸内海の栄養塩環境が太平洋と深く関わっており、太平洋の海水循環の変動が瀬戸内海にも影響を及ぼす可能性があることがわかってきました。このことは、瀬戸内海の栄養塩環境が温暖化などの地球規模の環境変動の影響を受ける可能性があることを意味します。このため、我々は瀬戸内海の栄養塩環境の長期的変動をモニターする必要を感じ、佐田岬に栄養塩自動監視システムを設置して平成12年より栄養塩他、様々な水質項目のモニターを行っています。このような環境変動は、モニターするばかりでなく、対策を考えるために将来を予測することも必要です。このため、当分野では瀬戸内海の高解像度数値モデルを開発中です。我々はこのモデルで、太平洋の海況変動が瀬戸内海に及ぼす影響の再現や予測を行うのみでなく、低次生態系も組み込むことによって、瀬戸内海の流れと生態系や環境問題の関わりを詳しく解析することを目指しています。
 現在当分野では、標記3名の教官スタッフの他、非常勤研究員1名、博士後期課程学生2名、博士前期課程学生7名、学部学生及び研究生8名が研究を行っています。教官は工学部環境建設工学科を兼務しており、同学科では学科の助教授(保全生態学)と共に海洋環境工学講座沿岸海洋学分野を構成しています。また、同学科の教務職員も当分野に協力して研究を行っています。これらのメンバーで、毎月定例の分野内対抗ソフトボール大会とコンパを行っていますが、これらの行事は研究分野の活力剤と潤滑剤の両面の役割を果たしています。
(文責 武岡英隆)

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆● メニュー        

<センタースタッフ自己紹介 No.4>

    鈴木 聡 (生態系解析分野)

「海の高分子ーヒトの肝炎研究から分子海洋学へー」
 2000年4月に高知大からCMESに転勤してきました。私の経歴は複雑怪奇です。生まれも育ちも北海道で、大学も海洋生態の勉強がしたくて北大水産類へ。ここまでは普通です。しかし、北大では2年後期に成績順で学科振り分けが行われますが、この時、私は不本意にも第二志望の食品学科へ回されました。今思うと、この学科へいったことが後に大変幸いしました。人間万事塞翁が馬です。ここで幅広く濃密な実験中心の教育をしてくれたお陰で、その後博士課程で薬学へ移っても何の抵抗もなくヒトの抗ウイルス薬の作用機構の研究に入れました。カナダでの約2年間のポスドク時代もヒトのB型肝炎薬の開発に没頭しました。医薬の研究は直接役にたつことがわかる学問で、競争も激しく、たいへんエキサイティングで楽しい分野です。しかし、この間も研究対象が海から離れてゆき、これでいいのか?と自問自答していました。
 運のいいことに、北大へ助手としてもどることができ、そこでかつての夢であった海の生態系の研究を微生物の視点からスタートすることができました。それまでに学んだ分子薬理学や生化学が大いに役にたちました。つまり、分子の目で生態系を見ようというコンセプトはこのときにできたのです。北大での約5年間は有機スズ耐性菌や海洋細菌のポリアミン生合成系の仕事を通し、海洋細菌における環境適応と代謝系変化の研究をしました。ついで92年に高知大の栽培漁業学科へ移りました。ここでは海産魚に病気を起こすウイルスと細菌の分子生態の仕事をしました。94年以降は有明海、宇和島、御荘などへ通い、アゲマキというマテガイの一種やアコヤガイにも感染するビルナウイルスの調査をしました。最近では同じウイルスが韓国で猛威を振るっており、日本産と韓国産ビルナウイルスの地理的変異の研究も進んでいます。ビルナウイルスは普段は病原性が弱いウイルスですが、負の環境要因との相互作用で病気を起こす日和見病原体としては注意が必要です。ウイルスの生態研究は水産業の現場でも重要ですのでCMESでも続けていきます。
 ウイルスの研究と同時に、海洋の物質循環に関する分子海洋学的研究も進めています。現在は、とくに微生物由来の高分子の海での代謝について研究を進めています。海洋に存在する有機物を考えると、魚やプランクトンやクジラまで含めても全有機物中に占める割合は1%以下であり、残り99%以上は生物由来の死んだ有機物なのです。私はこのような生物由来有機物の分解者であり、かつ生産者でもある微生物の働きに着目しています。微生物由来の特定の膜タンパク質が難分解性になるメカニズムや微生物が産生する分解酵素の研究、および微生物の遺伝子が水中で伝達されるメカニズムなど、海洋生態系での"分子の機能"を解明してゆく仕事を今後の中心にしていきたいと思っています。
 "生体"の生化学を"生態"の世界へ持ち込んで、物質レベルで海を知る研究はまだ始まったばかりの分野であり、世界中を見渡しても研究者人口は多くありません。CMESでは海洋研究のセンターとしての機能をより活性化させるために、優秀な研究者を養成することも大きなテーマとして実践していきたいと思っています。    

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●メニュー

<非常勤研究員自己紹介 No.4>

     金 恩英 (生態環境計測分野)

 愛媛大学には縁が深いようで、大学院連合農学研究科で博士課程を終了してから3年、また同じ研究室で研究を続ける事になりました。CMESの一員になった研究室は研究内容を含め、いろんな面で新しい挑戦を続けているように感じます。
 私は、博士課程で海鳥における元素の蓄積特性について研究をしてきました。海鳥には、沿岸でよくみられるウミネコから、外洋に暮らし、普段見ることができないアホウドリまで様々な種がいます。一般に、生物はその生息している環境中の汚染レベルを反映して、重金属や農薬のような環境汚染物質を生体内に蓄積しています。しかし、一部の海鳥は環境中のレベルからは想像もつかない種特異的な元素の蓄積を示します。例えば、アホウドリ類は毒性元素である水銀をその組織中に非常に高濃度に蓄積しています。それにも関わらず、アホウドリ類には水銀の毒性影響は見られません。このような水銀の高濃度蓄積は餌生物からの取り込みなど生態的要因だけでは説明できず、その種の特異的な代謝力が関与していると考えられます。
 野生生物の組織中の汚染物質蓄積レベルを測定することは、その生物の生息環境からの暴露量や毒性影響を推定する非常に有効な手法です。一方、野生生物の中には、アホウドリ類のように生物種による代謝力の違いを反映し、蓄積レベルが同じ環境に生息する他種のものとは異なる種が存在します。また、有機塩素化合物や重金属の暴露に対する感受性は実験動物種間で大きく異なることが知られています。すなわち、野生生物の汚染レベルやその毒性影響をより正確に評価するには、種特異的な代謝力や感受性の違いなどを考慮する必要があります。しかしながら、現在の環境化学や毒性学の分野では、生物の汚染物質蓄積レベルや、実験動物における化学物質の感受性についての研究がほとんどで、野生生物を対象にした化学物質の代謝力やその感受性の違いに関する研究は極めて少ないのが現状です。
 私は現在、海棲哺乳類と海鳥におけるダイオキシン類の毒性影響に対する種感受性の違いについて研究しています。海棲哺乳類は食物連鎖の高位に位置し、脂肪組織が豊富であることから、非常に高濃度の脂溶性化合物を生体内に蓄積している種です。また、近年、世界各地で海棲哺乳類の大量死や生殖異常が報告されています。大量死の直接的原因はdistemper virusによる感染ですが、環境汚染物質の暴露による免疫力の低下がその主な要因の一つとして挙げられています。
 しかしながら、海棲哺乳類におけるダイオキシン類の感受性に関する情報は殆どないことから、高濃度蓄積に伴う毒性影響の評価法は依然として確立されていません。また、多くの海棲哺乳類で個体数の減少が報告されており、この種を直接毒性試験に用いることは現実的に不可能です。そこで、私は生体内に存在する特定の受容体(Ah 受容体)をバイオマーカーとして用いることにより、種による化学物質の感受性の差を調べることを計画しました。ダイオキシン類は生体に入ると、細胞内に存在するAh 受容体と結合し、この化合物の代謝に関与する酵素の遺伝子を発現させます。一方、この受容体は、代謝に関わる遺伝子以外の、生理的に重要な多くの遺伝子の発現にも関与しており、このような遺伝子発現の一連の変化によって、様々な毒性影響が表れると推定されています。現在では、このAh 受容体とダイオキシン類の結合力の違いが種感受性を決定する最も重要な要因の一つであると考えられています。そこで、私は海棲哺乳類や海鳥のAh 受容体に着目し、ダイオキシン類との結合力を調べることによって、感受性の種差の解明を試みています。
 野生生物の毒性影響を調べることは、単にその生物の汚染実態が把握できるたけではなく、人間を含む生態系全体で、汚染物質がどのような機序を介し、どのような影響を与えているかを総合的に理解するために、非常に重要です。無数ともいえる化学物質が開発・生産され、環境中に放出される今日の現実を見ていると、環境問題に関わっている一人として自分の研究の限界を感じることもありますが、自分や研究室の限界に、また研究の限界に挑戦しながら、これからCMESでの研究に取り組みたいと思います。よろしくお願いいたします。

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●メニュー

第1回環境科学特別セミナー報告

「地球生物圏フロンティアの微生物」
 
 本年度からCMESと地域共同研究センター研究協力会環境保全部会が共催して環境科学特別セミナーを実施することになった。第一回は6月4日に広島大学生物生産学部助教授の長沼毅さんに標記タイトルで講演していただいた。氏は北極、南極、深海、地底など地球上のありとあらゆる特殊環境の微生物を研究対象にしている。自ら「しんかい」に乗り組み、また岐阜の地下深くに穴を掘って微生物採集をしているバイタリティーの固まりのような人である。現在は主に地底生物圏に興味があるとのことであった。
 講演では、まず氏が海洋科学技術センターと共同で行ってきた深海探査艇を駆使した研究、とくにハオリムシ(チューブワーム)の研究を紹介した。動物であるにも関わらず口も肛門もなく、共生微生物に頼ったエネルギー生産をしている生物の生きざまが話された。陸上植物は葉緑体との共生関係を確立した完成システムだが、ハオリムシは今後何億年かかけて共生システムを完成させていくだろうとのことであった。
 ついで、話は現在行っている地下生物圏探査の研究に移った。地底は地球上でもっとも大きい生物量を有する巨大生物圏であることが分かってきた。地上生物が太陽を食って生活する一群だとすると、地底微生物は酸素も光もない世界で地球を食べる、さらにいえば惑星をたべる生命体である。これまでは深海が地球で最大の生物圏であると考えていた氏が、今は地底こそが最大の生物圏であると認識を変えた、という興味深い話題に聴衆は引き込まれた。
 最後は、先だってNHK特集で放映された「宇宙生物探査」の話であった。この番組は氏が監修した。木星の衛星エウロパにしんかい6500を運んでエウロパの海の探査をしようという内容であった。生物がいる可能性も、この探査ができる可能性も紹介され、氏自らが宇宙飛行士テストを受けてまでやり遂げたい夢である、と熱く語った。
 多くの学生、教員たちにはたいへん刺激的であり、どんな分野の人も楽しめる講演であった。最近は若い研究者に熱い人間が少なくなったが、私としては長沼氏のようにマグマのごとく熱く燃える学生諸君が増えてくれたら、と念じて講演を聞き終えた。
 宇宙の深海生物を研究する氏の夢がいつか現実になることを祈るものである。
(文責・鈴木 聡)

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆● メニュー

「第2回漁場環境保全市民講座」のお知らせ


 CMESは、漁場環境の保全に関する勉強会を通して研究の成果を社会に還元し、地域住民や漁業関係者の疑問にお答えすると共に、水産業の健全な育成に貢献したいと考え、昨年度より、宇和島市において漁場環境保全市民講座を開催しています。本年度の開催予定は以下の通りです。本講座にはどなたでもご参加になれます(無料)。多くの方々のご来聴をお待ちしています。
 
 第2回漁場環境保全市民講座
  日時:平成13年9月8日(土)13時から15時
  会場:愛媛県宇和島市総合福祉センター(宇和島市住吉町1丁目6-16)
  演題:
     1.海のしくみと生物「いのちを育む潮の流れ」       CMES教授  武岡 英隆
     2.海の健康診断「魚介類の病気?感染と発病は違う」  CMES教授  鈴木 聡
     3.海の修復「海の泥から環境を考える」   香川大学農学部教授  門谷 茂
             
(文責 武岡英隆)

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆メニュー

3rd International Conference on Marine Pollution
              and Ecotoxicology参加報告

   2001年6月10日〜14日の間、香港で開催された標記国際会議に参加した。
 香港のチェクラップコク国際空港に到着すると、香港城市大学のPaul Lam教授、Bruce Richardson教授が笑顔で出迎えてくれた。両教授は、現在筆者が実施している国際共同研究の重要なパートナーである。Richardoson教授と筆者は20年来の朋友で、1980年に南氷洋の環境調査の際立ち寄ったメルボルン(オーストラリア)のラトローブ大学で初めて知り合い、以来家族ぐるみでの親交があり、国際誌"Marine Pollution Bulletin"のEditorial Board Memberとして論文の審査を任されている間柄でもある。今回の国際会議は、この両教授が主役を担い、大会委員長のRudolfu Wu教授と協力して開催したものである。
 この国際会議はほぼ2年に1回開催され今回が3回目であるが、毎回世界の海洋汚染研究の時宜を得た話題がテーマしてとりあげられている。今回は、大きな社会的・学術的関心を集めている「内分泌撹乱物質による海洋の汚染と生態影響」が主題であった。会議のセクションプログラムは、生態毒性、汚染モニタリング、富栄養化と酸素欠乏症、微量有機汚染物質、リスクアセスメントに分科して進行した。午前中はキーノート講演、午後はポスター発表と一般講演が中心で、実質4日間の会議で14題のキーノート講演、92題の一般講演、61題のポスター発表があった。
 キーノート講演は欧米の研究者が中心で、内分泌撹乱物質による地域的・地球的規模の海洋汚染の実態、生物濃縮の機序、魚介類のオス化やメス化の問題、高等動物の汚染と影響に関する現状分析と課題、分子マーカーを用いた毒性影響の検知法の開発、リスクアセスメントと環境基準の設定、などについて先端の研究成果が紹介され、今後の研究に資する貴重な情報を入手することができた。一般講演およびポスターは途上国研究者の発表が全体の7割を占め、その欧米との質的格差は依然として否めないが、香港、マレーシア、台湾などの研究者によって発表された一部の成果には極めて斬新的なものがあり、先進諸国とのギャップは確実に縮まっていると感じた。
 本会議には27カ国から170名が参加し、日本からの参加者は16名(内外国人留学生4名)で、11題の講演発表と2題のポスター発表が提示された。筆者はキーノート講演を依頼され、"Contamination and Toxic Effects of Persistent Endocrine Disrupters in Marine Mammals and Birds"の演題で、内分泌撹乱物質による海洋の高等動物の汚染と影響の実態についてこれまでの成果を発表した。また筆者の研究室(生態環境計測分野)の大学院学生5名も参加し、4題の一般講演と1題のポスター発表を行なった。先進国である日本が、欧米と肩を並べる学術成果を創出することは当然であり大学院生がその主体を担わねばならないが、国際会議等でのプレゼンテーションは依然として三流である。三流の中味は内容ではなく、パーフォーマンスとくに英語での表現力にあり、途上国研究者と比べてもはるかに見劣りする。日本の英語教育の遅れは、学術分野でも深刻である。国立大学の統廃合が検討されている中、愛媛大学が上位30校にランクされ研究の中枢機関としての生き残りを目指すのであれば、国際競争力に長けた大学院生を育てなければならない。英語教育を担当する外国人教師と大学院担当教官が一体となって、大学院学生の英語教育を見直し強化する必要がある。
 なお、本国際会議の発表論文は、Marine Pollution Bulletin (Pergamon)の特集号としての出版が予定されている。
(文責 田辺信介)
香港 学会会場にて

                                   香港 学会会場にて

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆● メニュー

第10回環境化学討論会報告

 5月23日から25日、松山市愛媛県民文化会館にて第10回環境化学討論会が開催されました(主催: 日本環境化学会、後援: 愛媛県、大会委員長: 立川 涼・愛媛県環境創造センター)。CMESからも田辺信介教授(生態環境計測分野)が実行副委員長を務めたほか、同分野の教職員・学生も実行スタッフとして参加しました。
 今大会には全国各地の大学・研究所・企業などから約900名が参加し、口頭120件、ポスター171件の発表がおこなわれました。
 一般講演の内容は、昨今の社会的関心の大きさを反映し、ダイオキシン類や環境ホルモンを扱った研究発表が多く、大気・水質・土壌・廃棄物・生物汚染の実態のほか、試料収集法・分析法の改良、さらにデータの精度管理に関する発表がありました。CMESの生態環境計測分野の大学院生・学部生も17題の発表をおこないました。
 また特別講演では、「化学物質から21世紀を考える」と題して立川 涼氏が講演され、化学物質を安全に使う技術や社会のあり方についての意志決定には、今後専門家のみならず広く非専門家の参画が望まれることを強調されました。さらに招待講演では、米国ミシガン州立大学よりK. Kannan博士をお招きし、最近新たな環境汚染物質として注目されている、Perfluorooctane Sulfonate の野生生物汚染の実態について、最新の調査結果を報告していただきました。
 懇親会には、加戸守行・愛媛県知事、鮎川恭三・愛媛大学学長も来賓としてご出席されました。加戸知事からは、環境化学会が21世紀最初の大会を愛媛県で開催したことに対する謝辞を頂きました。また、鮎川学長からは、今大会の成功について祝辞を頂いたのち、環境研究に果たすCMESの役割や今後の期待についても言及していただきました。
 以上のようなプログラムをを経て、今大会は盛況のうちに終了しました。さらに、講演の内容の一部はテレビなどのマスコミで報道されるなど、今大会は大きな社会的関心を集めました。
(文責 岩田久人)

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆● メニュー

センター機器紹介海底地形解析システム

 音波を用いて海底地形を平面的に探査するシステムが、海底地形解析システムである。一般にこのようなシステムはナローマルチビーム音響測深機と呼ばれる。そのシステムは、調査船から指向角の狭い超音波ビームを左右に開いた扇状に複数発信し、海底からの反射音を受信・解析することで、船の左右方向の水深を瞬時に測量する手法である。これは、従来の測深法に比べて、1)複数箇所の測深を同時に行うので作業効率がよい、2)面的な測量を行うので、地形を正確に捉えることができる、3)音響ビームが鋭く、細かい地形がわかる、4)デジタル測深なので、コンピューターを用いた資料解析ができる、5)測量と同時に海底地形図を自動的に作成し、リアルタイムで海底地形がわかる、といった特徴がある(浅田:1993)。
 愛媛大学沿岸環境科学研究センターが所有するシステムは、ナローマルチビーム測深機SEABAT8101ER型、NR230MK型GPSジャイロ、DMS2-05型高精度動揺センサー、SVPS型音速・圧力スマートセンサー、およびHYPACK型水路測量データ解析装置からなる。これらのうち、実際に海底の音響測深データを採取するのがSEABATである。SEABATは、100本の音響ビーム(測深周波数240kHz)を使用し、スワス幅は最大150°、最大で水深の約7.5倍の幅で海底地形をとらえることができる。そしてその測深レンジは水深1mから350m(スワス幅は著しく減少するものの、直距離では最大500m、実用測深深度は300m以浅)、測深分解能は全測深レンジにおいて1cmに達する。SEABATで得られたデジタル測深データは、HYPACKにおいて、上記の他の機器から得られた補正用のデータ、すなわち、調査船の位置とヘディング(ヨー)、船の動揺(ロール・ピッチ・ヒーブの3成分)にともなう測深ビームのずれ、そして水中音速変化に伴うビームの歪み、をもとに補正した上で、潮位データを加味して地形判読に供せられる。
(文責 井内美郎・奈良正和)

●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆●▲◆● メニュー

編集後記

今号から編集担当となりました。CMESの研究や行事に関する最新情報を皆様にわかりやすくお伝えできればと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。また、CMESのホームページが新しくなりました。ここから本ニュースのバックナンバーも読むことができます。(岩田)
                                            メニュー
環境調査終了後の記念写真 (5月18日 琵琶湖にて)  環境調査終了後の記念写真
                                (5月18日、琵琶湖にて)