刊行物


 No.5
          2002. 2. 14 発行      

   <目次>
     ・CMESの研究がNHKスペシャルに
     ・平成13年度年次研究成果報告会のご案内
     ・国際地球市民シンポジウムin えひめ開催報告
     ・第2回漁場環境保全市民講座開催報告 
     ・第2回環境科学特別セミナー開催報告
        「頻発するクラゲの大量発生:その原因と海洋生態系に及ぼす影響」
     ・第3回環境科学特別セミナー開催報告           
     瀬戸内海環境科学研究 
     ・応用生態工学研究会開催報告
     ・非常勤研究員自己紹介
        小濱 剛  (環境動態解析分野)
      ・Dioxin 2001 参加報告
      ・第9回世界湖沼会議参加報告
      ・第5回世界閉鎖性海域環境保全会議参加報告
     ・編集後記

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 CMESの研究がNHKスペシャルに! 

 CMESの研究成果を中心に構成された番組「瀬戸内海―豊かさのメカニズムを探る―」が、2001年9月30日(日)夜9時からのNHKスペシャルで放送されました。この番組の内容や意義について簡単に紹介したいと思います。
 番組は、瀬戸内海の美しい映像から始まります。水中撮影の映像を通して、日ごろ眺めている穏やかな瀬戸内海の中では、様々な生物の生命が誕生し育まれていることが実感できます。その後、番組は瀬戸内海の潮流に注目し、瀬戸内海を豊かな海にしているメカニズムに迫ります。このメカニズムの説明は、環境動態解析分野の武岡教授の「瀬戸内海に数多くある海峡の一つ一つが底層に豊富にある栄養塩を巻き上げるポンプの役割を果たし、瀬戸内海全体に栄養塩を供給している」という理論(栄養塩バイパス理論)に基づいて進められています。海峡付近で激しく海水が上下に混ざり合う状況は、愛媛県今治沖の来島海峡における水中撮影の映像と流速計で測定した流れのデータから伝えられています。これらの現場の映像に加え、CMESの大型計算サーバによる数値シミュレーションの結果に基づいて作成されたコンピュータグラフィックスによって、瀬戸内海の潮汐のメカニズムや栄養塩が海峡から灘に供給されるメカニズムがわかりやすく紹介されています。番組の後半は、瀬戸内海の海底環境の変化の紹介です。ここでは、環境影響評価予測分野の井内教授が現地観測のデータをもとに解説しています。井内教授は音波探査装置から海砂が取られた海域の海底が大きく変化していることを示し、海砂採掘によって光の届く浅瀬が減少していることにより生物が生息できる海域が減少している可能性があることを指摘しています。全体を通して見ると、瀬戸内海の独特な地形によって起こる強い潮流がこの番組の主役であり、栄養塩の循環や浅場の形成に潮流が大きな役割を果たし、瀬戸内海を世界に誇れる恵み豊かな海にしていることがわかります。

NHKスタッフによる計算機室での撮影NHKスタッフによる計算機室での撮影


 これまで瀬戸内海では人間活動によって様々な環境問題が起こり、こうした問題を指摘す様々るな番組も数多く作られました。今回の番組では、後半の一部でこうした問題が取り上げられてはいるものの、全体的には瀬戸内海の優れた面を強調する番組であり、環境問題に警鐘を鳴らす趣旨のものではありません。しかし、後日愛媛新聞に「瀬戸内海が優れた海であることを実感して瀬戸内海に誇りと愛情を持つとともに、心の底から瀬戸内海を大切にしたいという気持ちを持った」という意味の、この番組の視聴者からの投書が掲載されました。この投書は、環境問題を指摘し警鐘を鳴らすことばかりではなく、自然の恵みのメカニズムを理解し、自然に対する愛情や感謝の気持ちを持つことが、環境保全や環境回復の大きな推進力となることを教えてくれる非常に重要なコメントといえるでしょう。このような視聴者からの反応は、この番組が意義深いものであることと共に、CMESの研究が極めて大きな環境科学的価値を持つものであることを示していると思います。
 この番組は、CMESの名前と研究を全国に紹介したばかりでなく、世界に対しても瀬戸内海の理解を深めCMESの名前を広めるきっかけになりました。愛媛大学を訪問した機会にこの番組のビデオを視聴した外国の研究者の方々が、教材にする目的でビデオのコピーを持ち帰られたからです。私たちはこれを機会に国内外の研究機関と連携を深め、より幅広い研究を展開していきたいと考えています。

(兼田淳史)

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平成13年度CMES年次研究成果報告会のご案内


 CMESでは毎年度末にその年の研究成果を発表する年次研究成果報告会を開催しています。第3回に当たる今年度は、下記のような内容を計画しています。どなたでもご参加になれますので奮ってご参加下さい。講演プログラムの詳細はCMESのホームページでお確かめ下さい。講演要旨はホ
ームページにも掲載する予定です。

日時:平成14年3月6日(水)9時30分から
会場:愛媛大学工学部学部4号館18番講義室
参加費:無料
プログラム:
・愛媛県松山市堀江湾の底質分布      
・海底堆積物から見た愛媛県宇和海の過去約100年 間の環境変遷
・芸予地震による愛媛県下の液状化とその要因
・北条沿岸海域における生態系解析U
・内分泌攪乱物質による野生生物およびヒトの汚染 実態と影響に関する最近の話題
・海棲哺乳類におけるAryl Hydrocarbon レセプター の機能特性ーダイオキシン感受性のバイオマーカ ーとしての可能性
・ウミガメ類肝臓の微量元素蓄積に関与するメタロ チオネインの役割およびその異性体のクローニン グ
・血液を用いた野生動物およびヒトの有機スズ汚染 モニタリングとその免疫毒性・母子間移行に関する 研究
・対馬暖流の起源に関するトレーサー実験
・宇和海の底入り潮と黒潮の流路及び流量の関係
・速吸瀬戸における窒素・リンの輸送
・急潮・底入り潮にともなう宇和海沿岸域のN・P収 支
・宇和海における超微細藻類Prochlorococcus,     Synechococcusの生態学的役割
・宇和海南部、御荘町室手海岸におけるイソモク群落 の生態学的特性
・土佐湾に出現するベラ科浮遊期仔魚およびそれら の分布様式
・IMAGES VII-WEPAMA航海で得られた四国沖太 平洋の海洋コア中における微生物群集構造の解析
(武岡英隆)

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「国際地球市民シンポジウムin えひめ開催報告

 沿岸環境科学研究センター(CMES)は、「アジアの環境問題」をテーマに「国際地球市民シンポジウムin えひめ」を平成13年11月6日(火)、松山全日空ホテルで開催しました(共催:愛媛県環境創造センター、後援:環境省ほか県内7報道機関)。本国際シンポジウムは、健全な地球環境を維持・管理するために地球人として果たすべき役割と責任を地域住民や専門家に促すことを趣旨に開催されたもので、環境ホルモン問題の名著「奪われし未来」の著者ジョン・ピーターソン・マイヤース博士(米国Wアルトン・ジョーンズ財団代表)の基調講演「地球市民へのメッセージー環境ホルモンの教訓:社会統治への挑戦」のほか、タイ、ベトナム、カンボジア、韓国、日本から招へいした6人の講師によりアジアの環境問題の現状と課題が紹介されました。
 この国際シンポジウムは、沿岸環境科学研究センター設立時の目標である「アジアの沿岸環境科学研究の拠点として中枢的役割を果たす」ことを意図として企画したもので、外国人を含む県内外の専門家、一般市民、学生、NGOやNPO関係者など約350名の参加があり、当センターの国際的な活動に対して愛媛県や環境省など関係諸機関から高い評価を受けました。演者には参加者から多数の質問が寄せられ、またマスメディアにより広く報道されるなど大きな社会的関心を集めて盛況の内に終了しました。                   (田辺信介)
講演するマイヤース博士講演するマイヤース博士

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第2回漁場環境保全市民講座開催報告

 当センターの研究成果の社会還元と市民との意見交換を目的とした標記講座が2001年9月8日宇和島市総合福祉センターで開催され、市民約300人が参加した。
総合テーマは「守ろう愛媛の海、育てよう健康な魚介類」とし、3人の講師が講演した。
はじめに、武岡英隆氏が「海のしくみと生物-いのちを育む潮の流れ-」と題し、海中での栄養塩の循環や宇和海の底入り潮による栄養塩供給などについて紹介した。宇和海の複雑な地形の影響もあって、効率よく栄養塩が混合し、この海域の生産性を高めていることが話された。
ついで、鈴木 聡は「海の健康診断-魚介類の病気、感染と発病は違う-」と題し、アコヤガイや魚類に感染する日和見ウイルスの生態について紹介した。養殖では魚介類にストレスを与えないようにするのが一番の魚病対策、と結論付けた。
最後は香川大学農学部教授門谷 茂氏の講演で、「海の修復―海の泥から環境を考える-」と題し、70年代の赤潮大量発生時のリンやプランクトンの種が今も赤潮発生を引き起こすポテンシャルをもっている、と述べた。
会場には地元の高校生や養殖業者、および宇和島近郊の町からも聴衆が来ており、熱心に講演を聞いていた。数人の熱心な方々から質問や要望も出て、一方通行ではない市民講座に育ってきたように見受けられた。
今後さらに活発な議論の場になるように期待される。               
(鈴木 聡)

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第2回環境科学特別セミナー開催報告

「頻発するクラゲの大量発生:その原因と海洋生態系に及ぼす影響」

本年度よりCMESでは、地域共同研究センター研究協力会環境保全研究部会と共催で環境科学特別セミナーを開催しています。第2回目のセミナーでは、広島大学生物生産学部の上真一教授をお招きし、9月12日15時より工学部18番講義室で標記タイトルの講演を行っていただきました(写真1)。
 近年、瀬戸内海や世界の各地でクラゲ類が大発生し、発電所などで吸水口を塞ぐといったような事故や漁獲量の低下が起こっています。上教授は動物プランクトンの専門家ですが、最近このような状況に危機感を抱き、クラゲの研究に精力を注いで来られています。
 講演ではまず瀬戸内海や世界各地でのクラゲの大量発生の状況が、写真や豊富な統計資料を用いて紹介されました。ついで、このような大量発生の原因として4通りの仮説が提起されました。第1は富栄養化の進行がクラゲの生存に有利であるというものです。富栄養化が進行すると動物プランクトンが小型化すると考えられていますが、視覚によって大型の動物プランクトンを選択的に捕食する魚類に対して、大きさを問わず捕食できるクラゲ類は、魚類との競合に勝ちやすいというわけです。第2は冬季水温の上昇です。例えば瀬戸内海などでは通常クラゲ類は越冬できないのですが、近年は冬季の水温があまり低下しなくなってきたため、内海で越年してしまい翌年の大量発生につながるというものです。第3の仮説は、海岸性状の変化によるというものです。クラゲ類の幼生は海岸の岩場や浅瀬に付着して過ごすのですが、近年防波堤や垂直のコンクリート護岸、浮き桟橋などが至る所にできたため付着できる場所が増加し、しかもこれらの場所では幼生が捕食されにくて生残確率が高くなり、大量発生につながるということです。第4は漁獲圧の増大です。魚類とクラゲ類は餌の捕食に関して競合する関係にありますが、漁獲圧の増大は魚類資源の減少を招き、結果的にクラゲ類の餌を増やすことにつながるというわけです。特に世界的なクラゲ類の増加には、この要因が大きく働いているのではないかと考えられているようです。
 セミナー参加者の多くはクラゲの大量発生について耳にした経験はあったものの、写真や具体的なデータでその実態を目にしたのは初めてであり、説得力のあるデータに強く興味を引きつけられていました。沿岸海洋においては、過去数十年間にわたり赤潮問題が重要な研究のターゲットでしたが、これからはクラゲが重要なターゲットになるかもしれないことを多くの参加者が実感したようでした。なお、CMESでは上教授と共同でクラゲ大量発生に関する研究を進めています(写真2)。    (武岡英隆)

上教授の講演の様子  写真1 上教授の講演  

宇和海に大量発生したクラゲ     
写真2 宇和海に大量発生したクラゲ
(多数の白い帯状の部分)
(2001年9月19日、撮影:武岡英隆)

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第3回環境科学特別セミナー開催報告

1:Chesapeake Bay: Challenges to Environmental Management on a Partially Mixed Estuary
2:Ecological conditions in the North Sea and its management             

 平成13年11月19日から22日の間、神戸市で第5回世界閉鎖性海域環境保全会議(EMECS)が開催されました。第3回の環境科学特別セミナーは、この会議に参加されたアメリカのワシントン大学環境社会研究センター長のWayne H. Bell教授と、イギリスのハル大学河口沿岸研究所副所長のJean-Paul Ducrotoy教授をお招きして、11月23日午後、工学部大会議室で開催されました。アメリカのチェサピーク湾とイギリス東部の北海は、瀬戸内海と並ぶ世界の代表的な閉鎖的海域ですが、お二人はそれぞれこれらの海域の環境科学研究の第一人者で、EMECSにおいてもSession Coordinatorを務められるなど、中心的な活動を展開しておられます。
 チェサピーク湾は、カキ、ワタリガニ、スズキ等の水産資源の宝庫として知られていましたが、富栄養化による貧酸素水塊の発生等により大きな打撃を受けた海です。Bell教授は、チェサピーク湾の自然条件、水理構造、人間活動による貧酸素水塊や藻場の現象などの環境問題、環境保全対策や環境教育の現状など幅広い分野の話題を多彩なスライドを用いてわかりやすく解説されました。特に、チェサピーク湾プログラムと呼ばれる住民や行政、研究者が一体となった湾の環境回復への取り組みや環境教育の実践に関しては、瀬戸内海においても多くの見習う点があることを感じさせられました。
 北海もまたヨーロッパでは好漁場として有名な海ですが、特に人工密集地域に面した南部海域は大きな人為的インパクトにさらされ、様々な環境問題が起こっています。Ducrotoy教授は、基本的な北海の自然条件の他、環境問題については富栄養化の問題のみならず、有害化学物質による汚染、油汚染、観光・レクレーションに関する問題等の多岐にわたり話題を提供されました。北海が瀬戸内海やチェサピーク湾と大きく異なる点の一つは、多くの国がこの海に面しているという点です。このため、環境保全には様々な障害のあることが想像されますが、こうした障害を乗り越えた環境保全に対する国同士の連携が進みつつあることが印象的でした。
 両教授はこれまで瀬戸内海では大阪湾近辺を訪問されたことがあるだけでしたが、今回のCMES訪問ではNHKスペシャルの番組のビデオ(本号記事参照)をご覧いただいたほか、セミナー後に来島海峡や周辺海域を訪問され、瀬戸内海についての理解を一段と深められた様子でした。CMESではこれを機会に今後両研究所との連携協力関係を深めていきたいと考えています。         
(武岡英隆)
Bell教授(左から3番目)、Ducrotoy教授(同4番目)とCMESのスタッフ
Bell教授(左から3番目)、Ducrotoy教授
(同4番目)とCMESのスタッフ

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第1回瀬戸内海環境科学研究交流会開催報告

本年度からCMESと、大阪市立環境科学研究所、独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所が共催して、瀬戸内海環境科学研究交流会を実施することになった。第1回目である今年度の交流会は7月23日に愛媛大学工学部において開催された。演題は社会的関心の大きい環境ホルモンを扱ったものが大部分であり、特に沿岸域における環境ホルモンの動態に関する発表が多かった。通常の学会発表とは異なり十分な討論の時間を準備していたため、分析法から今後の研究の展開まで幅広い観点から熱心な討論が行なわれ、有意義な情報を得ることができた。
 講演者および演題は以下の通りであった。
1.大阪市域における大気中ダイオキシン類の時間的変動について
      東條俊樹 (大阪市立環境科学研究所)
2.大阪湾への流入過程におけるダイオキシン類の組成変化
      先山孝則 (大阪市立環境科学研究所)
3.大阪湾から紀伊水道にかけてのPOPsの分布
      角谷直哉 (大阪市立環境科学研究所)
4.ブチルスズ化合物による宇和海沿岸堆積物および養殖魚介類の汚染
 酒井大樹、笠井梨恵、高橋 真、田辺信介(CMES)
5.海棲高等動物におけるヒ素の化学形態
     久保田領志、國頭 恭、田辺信介 (CMES)
6.PCBsおよびダイオキシン類(PCDDs、PCDFs、PCBs)による宇和海沿岸堆積物の汚染
 久保田彰、染矢雅之、渡部真文、田辺信介(CMES)
7.マミチョグを用いた初期生活段階毒性試験
       角埜 彰 (瀬戸内海区水産研究所)
8.沿岸域における残留性有機塩素化合物の分布
―大阪湾を例として―
       市橋秀樹 (瀬戸内海区水産研究所)
(國頭 恭)

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応用生態工学研究会
現地ワークショップin松山 開催報告

「川と泉の生き物たち ―重信川流域―」

 平成13年11月30日、本学共通教育棟24番教室において、応用生態工学研究会のワークショップが開催された。以下に挙げる重信川流域の泉の生物や多自然型工法による河川改修などの6つの話題が提供され、120名の参加者を得て活発な議論が行われた。
・鷲谷いづみ(東京大学大学院)
「自然をより深く理解するための協働」
・千葉 昇(松山南高校)
「松山平野の泉の話」
・江橋英治(国土交通省松山工事事務所)
「重信川の多自然型河川工法」
・井上幹生(愛媛大学理学部)
「河川と泉のネットワーク」
・牧 理子(愛媛大学工学部)
「河川の帰化植物」
・大森浩二(CMES)
「河川生態系の健全性に基づく流域の保全」
 本ワークショップは、応用生態工学研究会の発案により、松山で開催されたものである。この応用生態工学研究会は、生態学の知見を効果的に河川改修などの土木工学的分野に生かすために1998年に新たに設立された組織である。これまでに全国各地で基礎生態学講座や現地ワークショップを行ってきたが、四国でも開催をということで発案された。私も研究会の一員であり、以前本研究会の理事をされていた水野信彦愛媛大学名誉教授のお膝元ということで私が雑用を引き受けることとなった。工学部の鈴木幸一先生や牧理子先生の協力を得て開催に漕ぎ着けた次第である。沿岸環境科学研究センター所属の私が河川を研究対象とすることには、多少違和感がないわけではないが、沿岸域とは浅海域と陸域の海岸を含んでおり陸水もその対象となるのである。流域での人間の活動の結果は、河川水系を通して沿岸域へと及ぶことを考えるとこの河川生態系は沿岸環境科学にとって実は重要な研究対象だといえるのではないか。このような観点から、河川生態系の健全性を適切に定義することによって、流域生態系の保全状態を把握し、その沿岸域への影響を評価できるようになるのではないかとの結論に達した。これが今回のワークショップで私の得たものである。  
(大森浩二)
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非常勤研究員自己紹介

小濱 剛
(環境動態解析分野)

出身は宮城県仙台市で、水産大学校を卒業後、香川大学大学院農学研究科を修了、そして愛媛大学連合農学研究科にて博士号を取得し、現在に至ります。幼い頃から海が大好きだったのですが、海水浴場として利用されるビーチにはあまり興味を持ちませんでした。確かに美しいとは感じていましたが、生物種が少なく、どこか寂しさが漂っているように感じ、もっぱらテトラポットや岸壁、岩場などに潜ってはそこに棲む生物をずっと眺めていました。これがこの世界に入るきっかけで、学部生、修士、博士と基本的に海の生物に携わる研究を行ってきました。
学部生時代の研究テーマは、アマノリ(紅藻)とヒトエグサ(緑藻)という異なる種類の海藻を細胞レベルで融合させ、人工的新種をつくり出すというものでした。その結果、得られた融合個体が両種の遺伝情報を持ち合わせることが解り、人工的新種の作製に成功しました。当時、2倍体や3倍体としてよく知られるように、同種間の細胞融合は一般的によく行われていましたが、異種間での試みは新しいものでした。ここでは、細胞や遺伝子に関する基礎知識と培養や分析に関する技術を学びました。
修士・博士課程では、沿岸域に生息する生物群集が、窒素やリンの物質循環に与える影響について評価するとともに、それら生物を用いた環境修復技術の開発について研究を行いました。近年、日本の海岸線は、干潟や藻場に代表される自然海岸から人工護岸へと急速に移行しつつあります。このように活発な人為活動の影響をうける沿岸域では、ムラサキイガイやカキ等で代表される付着性二枚貝類が、主要な生物群集となっています。本研究の結果から、これら二枚貝類が摂餌、排泄といったプロセスを踏まえて内湾の窒素やリンの循環に大きな影響を与えることが解りました。またこれらは広大なパッチを形成し、その生産性が高いことから、窒素やリンの削減を目的とした環境修復に効率的に利用できることが明らかとなりました。
現在、環境動態解析分野では、瀬戸内海から豊後水道、宇和海等をフィールドとして、外洋-内湾における物質循環のメカニズムについて研究を行っています。今まで、生物、化学の分野で研究を行ってきた自分にとって、斬新なことが多く、解析技術からある現象に対するもののとらえかたなど、学ぶことが数多くあります。沿岸域は外洋と比較すると水質環境の変化も激しく、多種多様な生物が生息していることから、その生態系は複雑なものとなっています。これらのメカニズムを正確に定量あるいは解明するには、物理学的な技術や視点も必要不可欠であることを強く感じました。今後は、今までの技術や知識を生かし、多方面にわたる視点から研究に取り組むとともに、社会に貢献する研究を目的として頑張っていきたいと思います。以上、2年間という短い間ではありますが、よろしくお願いいたします。

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The 21st International Symposium on Halogenated Environmental Organic Pollutants and POPs (DIOXIN 2001)
参加報告

 2001年9月9日14日の間、韓国・慶州で開催された標記国際シンポジウム(通称DIOXIN 2001)に参加した。
 この国際シンポジウムは世界各地で毎年1回開催され、今回が21回目である。毎回ダイオキシン類や難分解性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: POPs)に関する最新の話題がとりあげられている。
 このシンポジウムでは、幅広い分野にわたる研究が扱われており、今回も内分泌撹乱物質・臭素化難燃剤・生成と汚染源・分析法・人体暴露・食品中のPOPs・環境レベル・環境動態・疫学・毒性・生態毒性・リスクアセスメント・削減技術・国際条約などを含むセッションが設けられ、全体で230題の口頭発表・349題のポスター発表があった。また、これら一般の発表以外にも、4題のplenary lectureと、最終日には各セッションの研究成果を要約したハイライトセッションもあった。筆者の研究室(生態環境計測分野)からは、センター研究員と大学院学生を含め4名が参加し、4題の発表をおこなった。
 研究発表は、昨今の社会的関心の大きさを反映し、ダイオキシン類やその他の有機ハロゲン化合物の神経毒性や内分泌毒性を扱うものが多かった。実験動物や培養細胞を使った研究では、実際の環境では考えられない高用量投与の影響を調べるといったアプローチは、以前に比べて減少する傾向にあり、低容量投与の影響を新たなエンドポイントを用いて検出しょうという試みがいくつかみられた。ヒトへの影響に関しては、日本や台湾のPCB油症患者やその子孫を長期間にわたって追跡調査した研究成果が興味深かった。一方、野生生物を対象にした生態毒性学的研究は数少なく、これまでに実験動物で集積された知見が野生生物に十分に適用されていないことを痛感した。
 このほか目立った傾向として、遺伝子組み替え細胞を利用したダイオキシン類の定量法 (Bioanalytical Approach) に関する研究が増加していたことが挙げられる。この方法は、安価で迅速にダイオキシン類の定量が可能ということで、ここ10年ほどの間に環境試料に適用されるようになったが、従来の化学分析法に比べ再現性に乏しいことや検出感度が高いなどの欠点もあった。近年この分野の研究の進展により、こうした欠点は徐々に解消されようとしており、今後この方法は化学分析と併用されながら広く普及していくであろう。
環境や食品、そして生体中のダイオキシン類レベルに関しての発表も数多くみられた。欧米や日本では、スポット的な汚染・曝露はあるものの、一般にその汚染レベルが減少傾向にあることは、多くの報告で共通していた。その一方で、臭素化ビフェニルエーテルを含む有機臭素化合物の汚染レベルが、ヨーロッパ諸国や北アメリカで増加傾向にあるとの報告があった。とくに、ドイツやスウェーデンからのヒト母乳中で、これらの化合物が近年も増加傾向にあることには注目させられた。有機臭素化合物のなかにはダイオキシン様の毒性を示すものがあるにもかかわらず、日本では有機臭素化合物の人体汚染に関する報告は少なく、今後さらなる調査・研究が必要であると感じた。
 今回のシンポジウムは韓国で開催されたこともあり、今までダイオキシン類の汚染実態がほとんど知られていなかった韓国のモニタリング調査の成果報告も多かった。韓国の汚染レベルは、日本や欧米諸国と同レベル、もしくはそれ以下であったが、この国でもダイオキシン類汚染は確実に全国的に広がっていることが伺えた。現在、韓国ではヒトに対するダイオキシン類のリスク評価は実施されておらず、TDI(耐容一日摂取量)といった基準値も定められていない。このような国は、発展途上国を中心に数多く存在する。今回のシンポジウムでも、研究発表のほとんどが欧米や日本などの特定国であり、発展途上国からの報告は僅かだった。ダイオキシン類が非意図的生成物であることや、強毒性であることを考慮すると、発展途上国の汚染実態やその生態影響に関する研究は急務であると思われた。
 なお、本国際シンポジウムの発表論文題目は、www.dioxin2001.com から閲覧することができるほか、 Organohalogen Compounds Vol. 50-54 に要約が載っている。さらに、詳しい内容はChemosphere (Pergamon) の特集号としての出版が予定されている。次回はスペイン・バルセロナでの開催が決定しており、申し込み等の案内は www.dioxin2002.org から入手できる 。      
(岩田久人・国末達也)
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第9回世界湖沼会議(大津市)参加報告


第9回世界湖沼会議が、2001年11月11日から16日まで、滋賀県大津市のびわ湖ホールおよび大津プリンスホテルにて開催された。この会議は、琵琶湖で淡水赤潮やアオコの発生等の富栄養化の進行が顕著になった当時の武村正義・滋賀県知事の企画により1984年に大津市で発足し、その後ほぼ2年おきに世界各地で開催されてきたもので、今回は17年ぶりの「里帰り会議」である。この会議は、これまで研究者や行政機関が主導で企画運営されてきたが、今回は「湖沼をめぐる命といとなみへのパートナーシップ―地球淡水資源の保全と回復の実現に向けて―」のテーマをかかげ、研究者、行政、市民の連携による企画運営の下に湖沼環境問題についての情報交換を行った。
 今回の会議では、中学生らによる「子ども湖沼会議」や、琵琶湖の漁師、環境NGOによる発表など、通常の学会では見られない企画があった。また、資金の問題から通常の国際学会・会議などにはなかなか参加できない発展途上国の研究者や行政関係者の参加もあり、途上国における湖沼環境の破壊や水質悪化の深刻な現状が報告された。また、参加者の中には英語が不自由な方も多いことから、会議にはほとんど全て同時通訳が導入され、夜7時からの自主企画ワークショップにまで同時通訳があったのには驚いた。さらに、本会議の期間中およびその前後で、さまざまな自由会議が滋賀県内の各地で51も開催された。このように大きな規模に渡る本会議へはマスコミの注目が高く、10月から11月の某新聞では本会議に関する紹介を連日全国面で何らかの記事にしており、また会議の中では日本人(特に若い人)と外国人のディスカッションをテレビカメラが撮影している光景が随所に見られた。
 しかし、ニューヨークでのテロ事件および会議直前の米国航空機の墜落の影響のため、会議場周辺はものものしい警備が敷かれ、各会場へと通じる階段とエレベーターの入り口では毎回荷物チェックを受けなければならなかった。また、前述の事件のために、当初予定されていた海外からの参加者が参加できないあるいは参加を断念するケースが多く、外国人と接する機会にやや乏しかった点は国際交流の場としては不運であった。
 会議では、座長が議事進行に不慣れなケースがときどき見られ、また講演者が発表の制限時間を守らなかったためか質問・討議無しの講演が多く見られたのは残念であった。さらに、講演中に具体的な湖沼名を出さない(たとえば、ある講演での次の一言、「この湖をA湖といたしますと、A湖では毎年夏にアオコが発生し------」)など、いかにも行政的(?)な発表も見られた。対照的に、ポスター発表会場では、あちこちで熱心なディスカッションが展開されていた。膨大な数の研究・現状報告の発表があったにもかかわらず、海外からの陸水学・水圏科学研究者の参加に乏しかった点や、学術的に高いレベルの研究発表が他の多くの発表に埋もれてしまった点は、水の科学で研究を行っている若い研究者や大学院生にとって物足りなかったであろう。
 ともあれ、研究者、行政、市民の連携による企画運営により、「科学離れ」著しい日本の中学生にscientificな刺激を与え、湖沼からの恩恵を生業としているさまざまな人々の意見を尊重し、水環境問題について発展途上国と先進国の情報交換ができ、本会議や環境NGOがそれぞれに宣言を出せた点は評価したい。今後の水の科学の、さまざまな立場の人々による盛り上がりを期待したい。    (中野伸一)
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第5回世界閉鎖性海域環境保全会議(EMECS2001)参加報告



 本会議は、地中海、黒海、北海、チェサピーク湾、瀬戸内海などの世界の閉鎖性海域を持つ自治体の政策担当者や環境科学研究者や市民団体などが一体となって環境の保全に取り組むことを目的としている国際会議である。日本を皮切りとして、米国、スエーデン、トルコで開催され、今回第5回として再度日本の神戸で開催された。本会議では以下に示すようなテーマに分かれて議論が展開された。
第1分科会:沿岸域におけるモニタリングと環境 情報の果たす役割
第2分科会:陸域と海域の相互作用と理解
第3分科会:沿岸域の環境修復・創造と都市再生に 向けた取り組み
第4分科会:沿岸域の環境保全と環境教育・実践活 動
第5分科会:沿岸域環境管理における参加と連携
 本会議は、純粋な学術会議ではなく、幅広いテーマで多様な分野の専門家や行政、NPO等が参加しており、私としては理解できないテーマも多く、戸惑うこともあった。今回は、多少テーマとはずれるものの第1分科会のポスターセッションに参加した。以下にその概要を示す。
「安芸灘四国沿岸域の北条沖における1次生産構造について」
 安芸灘に面する松山市北部堀江から北条市にかけての約6kmにおよぶ沿岸域に於ける生態系の水平分布を調べ、その1次生産構造を検討した。
 この海域の東側は四国沿岸の砂浜となり、西側は水深40m以上の礫底の海峡部となっている。この海域南部の堀江海岸周辺では、水深15m前後の粒度の細かい泥質底となっており、中部から北部にかけて砂質底が広がっていた。また、この砂質域には北部と中南部に水深が10m前後の浅い砂堆が存在していた。
 この海域の1次生産構造を明らかにするために海底堆積物表層および水中のクロロフィルa量を計測した。その結果、堆積物表層において周年高いクロロフィルa量を観測した。特に南部の泥質底で最も高く(20-25mg/m2、水深約15m)、また、北部と中南部にある砂堆表面においても高い値を観測した。また、水中のクロロフィルa濃度については、7月―9月に北部の砂堆直上に約9mg/m3の高濃度な分布域が観測された。また、中南部の砂堆直上においても周辺部よりは高いクロロフィルa量を示した。このような高濃度分布域は、9月以降翌年6月現在まで観察されていない。この高濃度分布は、砂堆周辺の温度成層化した表層高温部に見られ、その下層の温度は砂堆の西側に広がる成層化していない海峡部と同じであった。この現象のメカニズムについては現在検討中である。南部の泥質底域においても7月―9月にかけて岸よりに温度成層がみられたが、砂堆上でみられたような高濃度のクロロフィルa量は観察されなかった。
 本海域では、その地形的・物理的特質に応じて1次生産構造がことなる生態系がモザイク状に分布することが明らかとなった。また、沿岸域海底表面での一次生産が水柱での1次生産と同レベルである可能性や夏季の高生産などこれまでに知られていない現象が観測された。これらのことは瀬戸内海の各沿岸域において普遍的に見られる状況と推定される。               
(大森浩二)
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編集後記

前号を発行してから、CMESは国際シンポジウムや市民講座・特別セミナー・研究会など、6つものイベントを開催しましたが、いずれも多くの方々のご協力により無事終了することができました。また、大規模な国際会議・シンポジウムにも参加し、外部への研究成果の公表も積極的におこないました。 今号はそれらの開催・参加報告が多くなりました。
(岩田久人)