No.6
          2002. 8. 1 発行       

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     ・平成13年度CMES年次研究成果報告会開催報告
     ・科学研究費による新規プロジェクト
     ・非常勤研究員自己紹介(1)
     ・非常勤研究員自己紹介(2) 
     ・最近のトピックスから「地底微生物界でのメタン代謝」
     ・開発か自然保護か沖縄島最大級の海草藻場「泡瀬干潟埋立問題」           
     ・ジャパンタイムス掲載記事報告 
     ・国連環境計画STAP Meeting 出席報告
     ・Second Technical Workshop on Ecotoxicological Impact and Transboundary Transport of Persistent Toxic Substances,Regionally Based Assessment of Persistent Toxic Substances 参加報告
      ・国際生態学会(INTECOL)の開催案内
      ・編集後記

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 平成13年度CMES年次研究成果報告会開催報告 


 平成13年度のCMES年次研究成果報告会が、3月6日(水)に工学部18番教室で開催されました。この報告会は、1年間のCMESにおける研究成果を内外に発表すると共に、研究の相互理解を深めて学際的研究の進展をはかるためのものです。研究発表は昨年同様16件でしたが、今年度からCMES研究員、客員研究員制度が発足したため、研究員による発表も行われました。また、CMESとの交流計画のある鹿児島大学水産学部付属の海洋資源環境教育研究センターからの御参加もあり、特別講演として同センターの紹介がありました。参加者は昨年度と同程度の約140名で、学外からも県内外の研究機関、漁業関係者、一般の方等の多数の御出席を頂きました。研究発表の模様や内容は、テレビのニュースや新聞にも取り上げられ、CMESの研究に対する一般の関心の高さが伺えました。この報告会の講演要旨はホームページでご覧になれます。

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科学研究費による新規プロジェクト


 CMESでは様々な研究資金により数多くの研究プロジェクトを展開しており、その概要は毎年発行している沿岸環境科学研究センター年報でご紹介していますが、ここではCMESのスタッフが研究代表者となっている科学研究費の課題の中から、本年度の新規採択課題の概要をお知らせします。
○特定領域研究(A)(1)計画研究、野生生物における内分泌攪乱物質の汚染とそのリスク評価、平成14年度、研究代表者:田辺信介
研究概要:本研究では、生物蓄積性内分泌攪乱物質に着目し、第三世界や遠隔地を含む広域汚染の実態を解明するとともに、潜在的に進行している化学物質の影響を分子レベルで検知することにより、どのような種類の野生生物に汚染が集中するのか、どのような生理機能をもった生物に毒性影響が発現しやすいのか、またそれは何故なのか、といった疑問の解明を試みる。すなわち、高濃度蓄積動物やハイリスクアニマルを特定することに加え、その科学的根拠を提示することによりこの種の内分泌攪乱物質の汚染と影響を総合的に評価する。
○特定領域研究(2)、有機スズ不活化遺伝子の海洋環境中細菌群集における分布と発現、平成14年度、研究代表者:鈴木 聡
研究概要:有機スズは免疫阻害、内分泌撹乱などの作用のある物質で、これまで、多くの海洋産業で使用されてきた。本研究では、海洋細菌のなかに有機スズを不活化する活性を見い出し、不活化タンパク質の遺伝子を特定することを目的とする。さらに、海洋環境中における、有機スズ分解・耐性菌の分布を探り、自然界の自浄機能を明らかにする。
○基盤研究(A)(1)、異なる環境間で起こる微生物遺伝子の循環の証明、平成14〜16年度、研究代表者:鈴木 聡
研究概要:異なった環境にすむ微生物間での遺伝子の水平伝播、循環の機構を解明し、それが一方向ではなくウェブ状に拡大することを観測と実験で証明する。薬剤耐性遺伝子、毒素遺伝子などを対象とし、トランスポートベクターの特性、伝播過程での遺伝子進化について、おもに海洋環境と人間生活環境間でのダイナミクスを研究する。
○基盤研究(A)(1)海外学術調査、東南アジアの海面養殖における漁場管理と環境保全、平成14〜17年度、研究代表者:武岡英隆
研究概要:海面養殖漁業は東南アジアではまだあまり盛んではないが、今後発展することが見込まれ、過密養殖等による環境破壊が懸念される。本研究では、このような環境破壊を未然に防ぐため、インドネシアの養殖漁場をフィールドとして現地調査を展開し、熱帯海域での持続可能な養殖漁業のための適性基準を明らかにすることを目的としている。
○基盤研究(B)(2)、河川の超ミクロハビタットの環境測定と微生物生態、平成14〜15年度、研究代表者:中野伸一
研究概要:海洋や湖沼のプランクトン食物網に見られる細菌と原生動物の食物連鎖(微生物ループ)については、日本に多く存在する流れが速い河川では全く研究されていない。しかし、河床の石表面直上の薄い水層には流れがほとんど検出されない層(停滞層)が存在し、停滞層では浮遊性あるいは付着力の弱い微生物による微生物ループが機能している可能性がある。本研究では、停滞層を含む河床の超ミクロハビタットにおける微生物の現存量・組成・活性と諸環境要因の関係を明らかにすることにより、超ミクロハビタットにおける微生物を介した物質循環を解明する。
○基盤研究(C)(2)、河川生態系の健全性評価に基づく流域生態系の管理、平成14〜16年度、研究代表者:大森浩二
研究概要:
○若手研究(B)、海鳥類におけるヒ素高蓄積機構の解明、平成14〜15年度、研究代表者:國頭 恭
研究概要:海鳥類におけるヒ素の体内分布、化学形態(水溶性の無機ヒ素と有機ヒ素、脂溶性ヒ素)、化学形態と母卵間移行の関係、胚の発生にともなうヒ素の化学形態の変化、ヒ素の細胞内分布、有機ヒ素化合物であるアルセノベタインとその窒素置換体であるグリシンベタインとの量的関係を明らかにし、海鳥類のヒ素の蓄積特性と高蓄積機構の解明を試みる。
○若手研究 (B)、新第三紀以降の浅海-海浜環境における化石底生群集―その古生態と生痕ファブリック、平成14〜16年度、研究代表者:奈良正和
研究概要:わが国には新第三紀以降の沿岸域で形成された地層群が広く分布している。本研究では、これらを形成した様々な堆積システムを認定し、そこに産する生痕化石群集ならびに化石群集の解析から、各堆積環境(堆積相)ごとの群集構造ひいては古生態系を復元する。また、各堆積相における生痕ファブリックも記載・報告する。これは、国際的に見ても情報の少ない、この時代の沿岸域における生痕化石群集、古生態系そして生痕ファブリックに関する新知見を提供するものである。
○特別研究員奨励費、海洋細菌における環境由来DNAの利用機構の解明、平成14〜16年度、研究代表者:野中里佐
研究概要:水圏環境において、溶存態DNAは細菌によって有機リン源として利用される。本来 DNAは遺伝情報源として機能しているが、環境中溶存態DNAが直接的に細菌に取り込まれて遺伝情報源になっていることは明らかにされていない。本研究では、海洋環境中での溶存態DNAの異なるふたつの生態学的、遺伝学的機能を明らかにすることを目的とする。
○特別研究員奨励費、アクアビルナウイルス感染症に対するDNAワクチンの開発、平成13(8月)〜15年度(8月)、研究代表者:張 伝渓
研究概要:魚類において慢性的、あるいは日和見的に発生するビルナウイルス感染症は有効な薬剤も実用化されておらず、ワクチン開発が望まれている。本研究では、近い将来に認可される可能性のあるDNAワクチン開発を目的とする。また、その過程で、本ウイルスの遺伝子構造とその変化を詳細に解析する。

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非常勤研究員自己紹介(1)

 片野 俊也

 生まれは神奈川で、大学、大学院ともに実家から通いましたので、四国に住むのは初めてです。東京都立大学理学部生物学科、同大学院理学研究科修士課程を修了後、一度は製薬会社に就職しました。しかし2年後もう一度勉強しなおそうと東京都立大学大学院博士課程に再び入学しました。博士課程は昨年9月修了しました。その後1ヶ月間だけ東京薬科大学生命科学部で嘱託研究員として勤務したのち11月より当センターに着任しました。
 製薬会社では、研究や開発職ではなく、MRとして神奈川県内の中小病院と医院併せて400件を担当しました。その仕事は真剣に取り組むと相当面白いのですが、僕にとって一生続けるほどの魅力はありませんでした。
 学部から現在まで超小型の植物プランクトンであるピコシアノバクテリアを対象として、その生態学的な研究を行ってきました。この生物群は海洋及び湖沼に広く存在が知られています。特に貧栄養な水域では一次生産に対する寄与は大きく外洋では一次生産の大半を担っていると考えられています。以下にこれまでに行ってきたことを簡単に紹介します。
 学部では東京都の奥多摩湖と呼ばれるダム湖で調査、実験を行いました。この湖は自然湖沼、貯水池を含めて東京都内最大の湖で多摩川上流に位置します。多くのダム湖同様、河川流入部では富栄養湖に近く夏期にはしばしばアオコも出現します。一方ダムサイトは貧栄養な環境にあり、透明度は10mを超えることもめずらしくありません。従って同じ湖でありながら貧栄養な部分と富栄養な部分を比較しやすい特徴を持っています。そこでダムサイトから流入河川まで7から8定点を設け月一回の現存量調査と室内培養実験を二回いました。その結果、貧栄養な水域より富栄養な水域でピコシアノバクテリア現存量は高く、またその現存量は水中無機態リン濃度に強く影響を受けていると考えられました。
 修士課程では、奥多摩湖の他にバイカル湖での調査を行う機会を得ました。バイカル湖は世界でも有数の大きな湖で、深さは世界一です。地球表面上の陸水の20%をたたえるこの湖は透明度が高く貧栄養湖として知られています。しかし夏期に透明度の低下がおきることも以前から知られていました。7月下旬にはピコシアノバクテリアの大増殖がおきていることもわかってきていました。そこで修士2年間ともに6月から2ヶ月ほど滞在しピコシアノバクテリアの細胞密度の増加していく過程を調査しました。2年とも水温が上昇し始めるのにともなって細胞密度は1ヶ月の間に200倍に増加しました。
 博士課程ではピコシアノバクテリアの種組成の解析を分子生物学的な手法により行いました。非常に小さく形態も単純なため顕微鏡観察から種を識別することは不可能ですが、野外群集は複数種を含みます。それらを分子生物学的な手法により識別しました。ピコシアノバクテリア群集を構成している種は複数の属にわたり多様でした。また約1年間の調査により、冬の間はほぼ単一種から構成され時間とともに変化しないのに対して、春から秋にかけては群集を構成している種は時間とともに変化していることがわかりました。また、用いた分子生物学的手法を発展させてピコシアノバクテリア群集の優占種の推定方法を確立しました。
 これまで湖のピコシアノバクテリアだけを対象としてきましたが、本センターでは海をフィールドとしています。現在、宇和海内海湾においてピコシアノバクテリアの現存量の季節変化、増殖速度と光環境の関係、栄養塩添加効果、等について調査・実験を行っています。宇和海には2種類の外洋水の流入が知られています。1つは暖かい外洋表層水が流入する急潮でもう1つは冷たく栄養塩に富む外洋深層水が流入する底入り潮です。これらの外洋水の流入が調査海域のプランクトン群集にどのような影響を与えているかは興味深いテーマです。
 外洋水流入のプランクトン群集に対する影響のようなテーマには生物学的なデータだけでなく外洋水流入に関する物理学的なデータも不可欠ですが、1つの研究室だけではとれるデータに限界があります。しかし、いつどの程度外洋水が流入したかについては宇和海水温情報システムなどによりある程度推定可能です。また湾から外洋にかけてトランセクト調査などについて他研究室との共同研究も行う予定です。このような、他分野の研究室との情報の交換や共同研究を行いやすい点はセンターならではのものです。
 水界生態学、微生物生態学では方法的な制約がまだまだ多く、機器類、分析方法の発達が望まれていますが、本沿岸環境科学研究センターは設備も充実していると感じます。海洋沿岸域のプランクトン研究を行うには恵まれているこの職に就く機会を下さった方々の期待に添うためにも頑張ります。短い間ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

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非常勤研究員自己紹介(2)

上野 大介(生態環境計測分野)

 2002年3月に愛媛大学連合農学研究科で博士課程を修了し、4月からCMESで働かせていただくことになりました上野大介と申します。学部時代は北海道東海大学海洋開発工学科で過ごし、卒業後に愛媛大学大学院農学研究科に入学しました。愛媛大学とのつながりは、化学物質による環境汚染の問題にたずさわりたいと思い、田辺教授を訪れたことが始まりです。田辺教授の口癖である「バカは寝ちゃいかん!」「頭がボロい奴は気力と体力で勝負しろ!」の2つをモットーに研究生活を送っています。環境汚染問題の改善に貢献できるような情報を社会に提供できるよう、精一杯がんばっていきたいと思っています。至らない点が多々あると思いますが、ご指導ご鞭撻よろしくおねがいいたします。
 私がこれまで取り組んできた研究テーマは、「魚介類を指標とした外洋域における有機塩素化合物汚染モニタリング手法の開発」というものです。残留性有機塩素化合物(OCs)はその環境残留性や生物蓄積性、内分泌かく乱作用をはじめとする毒性のため世界的に使用が規制されている物質です。またOCsは大気を通じ、国境を越えて地球規模で移動拡散するため、残留性有機汚染物質(POPs)として国際的な問題にも発展しています。POPs問題の対策を考える場合、まず地球規模での汚染レベルやその分布、最終的な行方を知る必要があります。これまでOCs汚染の現状を把握するため、モニタリング調査が多数実施されてきました。沿岸域の汚染に関しては、固着性二枚貝イガイを用いた調査が広く一般化され成果をあげています。しかし沿岸域に比べ「外洋域」におけるOCs汚染モニタリングは断片的で、生物を利用したものはイカや海棲哺乳類の例が報告されているのみです。その理由として、試料の採取が難しいことがあげられます。以前より、「外洋域は有害汚染物質の最終的な溜まり場」となることが指摘され早急な調査が望まれてきましたが、その汚染に関する情報は限られているのが現状です。地球規模で広がりをみせるOCsの消長を正確に理解するには外洋域の調査が不可欠であり、それらは国際的な環境保全対策および、化学物質の使用規制などを考える上で必要不可欠な基礎情報となります。そのような中、外洋域の汚染実態をより簡便に調査するため、適切な指標生物を用いたモニタリングシステムの確立が求められてきました。そこで本研究では指標生物として魚介類に着目し、モニタリング手法の開発を試みました。
 指標生物としての魚介類には、カツオとクロマグロに着目しました。カツオとクロマグロは世界中の外洋域に広く分布している回遊魚であり、食品として大規模な商業漁獲があります。そのため入手が比較的容易であり、地球汚染を理解するための指標生物として適切であると考えられます。そこでカツオとクロマグロを世界中の外洋域から採取し、体内に蓄積しているOCsを定量しました。その結果、全てのカツオやクロマグロから相当量のOCsが検出されました。カツオは世界的なOCs汚染の分布を反映していることが明らかとなり、地球規模のモニタリングに適した種であることが示されました。またクロマグロに関しては、大型検体は小型検体よりOCsを高濃度蓄積する傾向がみられましたが、体長で濃度を補正すればどのような成長段階のクロマグロでも汚染レベルの比較は可能であることが判明しました。OCsを高濃度蓄積する大型クロマグロは、極微量の汚染物質をモニタリングする際に有効利用できる可能性が示唆されました。本研究ではこれら成果をもとに、生物指標の適切な利用方法をマニュアル化することを試みました。このマニュアルを利用することで、地球規模の外洋域汚染モニタリングをより簡便、かつ継続的に実施することが可能であると考えられました。今後、OCsに関して指標生物としての有効性が明らかとなったカツオとクロマグロを利用し、新規汚染物質の地球規模モニタリング、さらにバイオマーカーをもちいた毒性影響評価方法を検討することが課題となりました。
 近年、有機臭素化合物による環境汚染が国際的に問題となっています。当初、有機臭素化合物は環境残留性や生物蓄積性が低く安全な物質だとされ、主に難燃剤として先進工業国で用いられてきました。しかし大量の使用により、ヨーロッパ諸国や北アメリカなどのヒト母乳や野生動物中の有機臭素化合物残留濃度が近年も増加傾向にあることが報告されています。今後、有機臭素化合物に関する汚染問題の対策を講じる場合も、地球規模での物質の消長を把握することは不可欠であり、そのためには外洋域における汚染実態の調査は必要です。本研究で確立した手法をもちい、利用可能な情報を国際社会に提供することが急務であると考えています。

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最近のトピックスから

「地底微生物界でのメタン代謝」


鈴木 聡(生態系解析分野)

 生態系解析分野では海洋物質循環過程での微生物機能解明を柱のひとつとして研究しているが、最近海水中だけでなく、海洋コア中の生態系にも目を向けた研究が始まっている。その成果の一部が2002年3月7日付けの愛媛新聞に紹介された。
 地球温暖化ガスのひとつであるメタンが深海底で低温・高圧下で氷状に固まったものをメタンハイドレートという。これは化石燃料にかわる次世代のエネルギーとして注目されている。生態系解析分野ではIMAGESプロジェクトの一環として高知大学海洋コア研究センターと共同で四国沖太平洋の海洋コアを採取し、過去約13万年前までの地層中の遺伝子を解析した。その結果、2〜5万年前の地層から既知のメタン分解細菌群に遺伝的に極めて近い細菌が多数検出された。今後、メタンの合成と分解のサイクルが地下生物圏で行われていることを証明すると同時に、新規遺伝子資源の利用を進め、地球環境保全に役立てたいと考えている。
 四国周辺の沿岸域では水産業に利用する海域環境以外にも、このように今後生物科学のメスをいれるべき海洋環境が存在し、当センターの生物系分野の守備範囲も広くなっていくと予想される。


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開発か自然保護か

沖縄島最大級の海草藻場「泡瀬干潟埋立問題」             

金本 自由生(生態系解析分野 助手)

 新聞やテレビの報道でご存知の方もあるかと思いますが、今、沖縄県では泡瀬干潟の埋立問題で、賛否両勢力入り乱れて大論争となっています。沖縄市の振興を目的に沖縄市泡瀬地区地先の公有水面185haを埋め立てる予定ですが、埋立てるにあたって絶滅危惧種の海藻クビレミドロの保護と海草藻場の移植という条件を提示されています。私は亜熱帯海草藻場の専門家の立場で、「中城湾港泡瀬地区環境監視・検討委員会」及び下部組織「海藻草類移植・保全ワーキング・グループ」(以下ワーキング)委員就任を今年度も要請されました。
 今年度1番目の仕事は、6月17日の埋立事業主体の「沖縄総合事務局」(以下事業者)、埋立反対市民グループ「泡瀬の干潟を守る連絡会」(以下反対派)、埋立推進市民グループ「美ら島(ちゅらしま)を創る市民の会」(以下賛成派)、事業を許可する立場の沖縄県、埋立事業推進母体の沖縄市、オブザーバーとして東京から自然保護協会及びWWFジャパンが参加し、我々ワーキングに属す委員3名が参加しての、物々しい合同調査になりました。
 そもそも、公共事業としては異例の合同調査が行われるに至った経緯は、事業者側の調査データと、反対派が独自に行ったデータに大きな隔たりがあったにも関わらず、事業者側が今年2月22日の委員会後の記者会見で、埋立にゴーサインを出してしまったことに端を発しています。4月の沖縄市長選とも絡んで、反対運動は頂点に達し、今回の合同調査に至りました。
 6月17日当日は午前8:30集合、9時出港、午後3時入港、4時から意見交換会という、強行スケジュールでしたが、定刻8:30には、事業者、推進派、反対派、オブザーバー、報道陣でごった返しており、改めて関心の高さに驚かされました。雨こそ降らなかったものの、かなり強い波浪の中、潜水調査用船3隻、海上調査用船3隻、報道関係用船3隻、連絡用船1隻、総勢50名を越す物々しい陣容で出港しました。予め参加を登録していない者は、シャットアウトされたにも関わらず、シーカヤックで後を追いかけ、潜水調査に紛れ込むつわものもいて、監視艇からマイクで退去勧告するハプニングもありました。事業者、推進派、反対派、県、市、オブザーバー、ワーキング委員が同じ船に乗り合わせ、文字通り「呉越同舟」での調査でした。合同調査コースについても、5月28日に行われた事業者と反対派の合同調査推進会議で、移植が成功しているところだけを選んでいるのではないかとのやり取りがあったと聞いています。昼食に上がった防波堤の上では、早くも報道合戦、事業者、反対派及び推進派の代表、ワーキング委員の各氏は休む間もなく新聞各社の記者に追い回され、各自コメントした内容は、記者のパソコン通信や携帯電話で発信され、各誌夕刊でそれぞれ1面、3面にカラー写真入り4〜5段の記事で掲載され、翌日朝刊では、1、2、27面で扱った誌もありました。また、テレビ各社は昼のニュースで第一報を報道したと聞きました。
 午後4時からの意見交換会にも報道関係が詰めかけ、議論は紛糾し、午後5時終了の予定が、6時まで延びてしまったにも関わらず、誰一人退場する者もいなくて、司会者は終了宣言に苦慮していました。正直言って、委員の要請があった時は、移植は無理だと申し上げたのですが、埋立の条件として海草藻場の移植が入っているとかで、移植実験を開始した訳ですが、沖縄の海草藻場は数種の亜熱帯適合海草が混在し、しかも各海草は微妙に分布範囲が違うと言う様相を呈しています。しかも、私が石垣島で行っている調査の結果とは微妙に違っており、事業者に移植する前に、しっかりした分布調査を行うように提言したのですが、時間と予算がないとかで、無視されてしまいましたが、反対派は地道に全域調査を行っており、これが両者の主張の大きな隔たりとなっています。オブザーバーの自然保護協会やWWFジャパンからは、今後も合同調査や円卓会議がなされるように要望が出されました。開発か自然保護か、今後の公共事業のあり方について、大きな進歩を遂げた合同調査ではありましたが、改めて委員の責任の重さを痛感させられました。


higata:約100haに及ぶ膨大な泡瀬干潟。干上がった時には多くの者が干潟の生き物を求めて、浜に下りてくる。この半分以上が埋立られる。


Transport :バックホウによって移植された海草塊。干上がるところでは殆ど枯れてしまっている

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ジャパンタイムス掲載記事報告
「Ecotoxicologist Warns of Pollutants Hurting Whales, Dolphins, Humans」


田辺信介(生態環境計測分野)

 本年5月に、山口県下関市で国際捕鯨委員会が開催された。これに関連して、有害物質による鯨肉の汚染と食品としての安全性についてジャパンタイムスの記者、Mr. Mick Corliss に環境省記者クラブで取材を要請され、以下の概要が5月17日の紙面に掲載された。
 鯨の肉、とくに魚介類を補食する鯨類の肉は高濃度の水銀や有機塩素化合物(PCBやDDTなど)で汚染されており、これを食糧資源として利用している日本人の健康影響が懸念されている。しかし、捕鯨論争に敗北したわが国では鯨肉の消費量が著しく減少し、一般人にとってもはや鯨肉は重要なタンパク源ではなく、今や酒肴品と化したきらいがある。したがって鯨肉を通して一般人が曝露される有害物質の量はそれほど深刻ではなく、懸念される場面があるとすれば沿岸捕鯨を続けている漁村の住民、とくに妊産婦に対する影響であろう。
 むしろこの事態はヒトより鯨の健康に及ぼす影響の方が深刻で、最近頻発している鯨類の座礁やウイルス感染による大量死は、有害物質が免疫機能や内分泌系を攪乱したためと推察されている。鯨の有害物質問題は、生態系全体を保全する理念、すなわち人類の生態観や環境観が問われている課題である。

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国連環境計画STAP Meeting 出席報告

田辺信介(生態環境計測分野)

 2002年6月18日〜6月21日の間、国連環境計画(UNEP)の科学技術専門家会議(STAP:Scientific and Technical Advisory Panel)に出席した。本会議は、米国ワシントンDCにある世界銀行(World Bank)のビルで開催された。
 STAPは、UNEPのプロジェクト執行母体である世界銀行の地球環境機構(GEF:Global Environmental Facility)に委託され、深刻化する地球規模の環境問題解決のための科学的・技術的提言を行なうとともに実施された計画を審議し評価する機関で、1996年に発足し2002年7月から三期目(STAP III)がスタートする。今回の会議は、引継ぎのためSTAP IIとSTAP IIIのメンバーが一同に会し、これまでの成果と問題点を報告するとともに今後実施すべき課題を検討することがねらいであった。GEFの専門家選考委員会は、候補者380名の中から、これまでの経験と実績に加え地域や性のバランスを考慮して15名のSTAP IIIメンバーを人選したが、委員長、副委員長ともに女性が指名されたのはどうかとも思えた。しかし、二人とも活動的かつ有能なのでマアいいかということで一同納得した。日本はGEFに最高の信託基金を拠出しているため1名の選出が暗黙の了解となっており、国立環境研究所の理事である西岡秀三先生の後を筆者が引き継ぐことになった。
 これまでSTAPでは、Biological Diversity(生物多様性)、Climate Change(気候変動)、International Waters(国際水域)、Ozone Depletion(オゾン層破壊)に関するプロジェクトを中心に審議してきたが、2001年からLand Degradation(土地荒廃)とPersistent Organic Pollutants(POPs:残留性有機汚染物質)が新たに加わり、筆者はPOPs担当ということで指名された。2001年5月にPOPsの生産・使用・流通を廃絶するストックホルム協定が締結されたためUNEPは2004年を目途に国際条約の批准をめざしている。これを受けてGEFはPOPsを新しいプロジェクト課題とした。周知のとおり、ダイオキシンやPCBsなど12種類の有機塩素化合物がPOPsとして指定されており、これらは毒性が強く、長距離輸送され、環境や生体内に長期間残留するため、ヒトや野生生物に対する健康影響が懸念されている。GEFは、POPsを廃絶するため、5百万ドルを投資して調査を開始した。世界を12地域に区分してワークショップを開催し、各地域の汚染源、環境濃度、生態毒性に関する情報を収集するとともに、データギャップの現状と環境影響の把握に努めた。その結果、ストックパイルの存在が判明したことに加え、POPsの中でとくにPCBs、HCH、DDTとディルドリンの汚染に関心の集中していることがわかった。また、ダイオキシン類や多環芳香族化合物に対する地域の関心も高いが、実測例はきわめて乏しいことが明らかとなった。これらの成果を今後STAPが審議し、その報告を受けてUNEPとGEFが協議をすすめ、データギャップを解消するための大型プロジェクトの実施を関連機関や各国政府に勧告する。このプロジェクトを実行するには巨額な資金を必要とするためSTAPに課された責務は重く、継続審議のための会議の開催がワシントンDCとケニアのナイロビで今年度中に3回予定されている。
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Second Technical Workshop on Ecotoxicological Impact and Transboundary Transport of Persistent Toxic Substances, Regionally Based Assessment of Persistent Toxic Substances 参加報告


岩田久人(生態環境計測分野)

 2002年5月14日〜16日の間、香港・Baptist Universityで開催された標記ワークショップに参加した。
 本ワークショップは、Global Environment Facility(GEF)から資金援助を受けた国連環境プログラム(UNEP)が主催し、難分解性の有害化学物質(PTS: Persistent Toxic Substances)による影響を地域レベルで評価するためのプログラムの一環として開催された。このプログラムでは、世界が12の地域に分割され、日本は韓国・中国・ロシア・カザフスタン・ウズベキスタン・キルギスタン・トルクメニスタン・モンゴルなどと同じ北東アジアに区分されている。各地域のRegional CoordinatorはPTSの専門家を集めてワークショップを開催し、Regionalレポートを作成することが求められている。最終的に地域毎のRegionalレポートは2002年中頃までにまとめられ、それらを統合したグローバルレポートが2002年末には作成される予定である。このグローバルレポートでは、PTS問題の解決に向けて優先して扱われるべき問題がRegionalレポートからリストアップされることになっており、各国専門家はこのレポートを通じて、GEFやUNEPに今後の対策について提言することが期待されている。なお、このワークショップが開催されるに至った背景については、田辺氏が本号の「国連環境計画STAP Meeting 出席報告」のなかで解説しているので、そちらをご覧いただきたい。
 本ワークショップでは、招待された北東アジア各国の代表者がPTSの越境移動・生態影響に関するDiscussion Paperについて口頭発表し、意見交換した後、各国毎に個々のPTS問題の重要度をスコアー化する作業をおこなった。ワークショップは表題の通り今回で2回目であるが、1回目は前月に日本の国立環境研究所で開催され、そこで汚染源・環境濃度が議題として取りあげられたので、今回は生態毒性・越境移動が議題となった。この2回目のワークショップには、日本から国立環境研究所の鈴木規之氏と筆者がそれぞれ越境移動と生態毒性の専門家として招待された。
 ワークショップ初日は最初にRegional CoordinatorであるBaptist UniversityのWong教授からOverview スピーチがあり、続いて招待参加者による14題の口頭発表がおこなわれた。筆者はLevels and Ecotoxicological Risk Assessment of Polychlorinated Dibenzo-p-dioxins, Dibenzofurans and Coplanar Polychlorinated Biphenyls in Aquatic Mammals and Fish-eating Birds from the Far East: A Recent Overview と題して、極東域の野生動物におけるダイオキシン類汚染の実態と影響評価について、筆者らの最近の研究成果を紹介した。各国代表者のDiscussion Paperには、これまでPTSの使用量や汚染状況があまり知られてこなかった国からのデータが含まれており、興味深いものがいくつかあった。例えば、中国でDDTの累積生産量が40万トンであったことや、ロシアでPCB製剤の使用量が50万トンであったこと、ウズベキスタンでは綿花栽培のために未だ大量の有機塩素系農薬が使用されている等の報告は、今後これらPTSの地球規模での環境汚染レベルや生態影響を調査する際に有用な情報になるであろう。
 ワークショップの2日目・3日目には、各国の参加者がそれぞれPTSのスコアーをまとめた。スコアーは、影響の心配がない物質については0、影響が懸念される物質については、その深刻さに応じて1もしくは2が与えられるよう定義されていた。3日目の午前には各国のスコアーをまとめた一覧表が完成した。できあがった各国のスコアーを化合物毎に合計すると、PCBやダイオキシン・フラン・芳香族炭化水素類・HCH・DDTが高スコアー化合物となった。
 ここで高スコアーとなったPTSの多くについては、すでに欧米や日本では何らかの法的対策が措置されているが、これらPTSの環境汚染はこうした国々でも依然として継続している。また、ウズベキスタンやカザフスタン・ロシアからの参加者はDDTを高スコアーにランク付していた。これらPTSによる北東アジア生態系への影響に関する調査・研究は未だ断片的で数も少なく、多くの国々で実態はほとんど把握されていないのが現状である。今後北東アジアで生態影響に関する研究を幅広く展開する必要があると強く感じた。

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国際生態学会(INTECOL)の開催案内


 今年の8月11日から18日まで、韓国・ソウル市において、国際生態学会(INTECOL)が開催されます。INTECOLでは、陸圏、水圏、大気圏など生物の生息域として考えられる全ての場について、植物・動物・微生物の全ての生物をあつかい、また現場調査・室内実験・数理モデルから農業などへの応用まで、つまり生態学で扱うありとあらゆる場・生物・理論・手法に関する発表が行われます。CMESからは、教官と研究機関研究員および幾人かの学生が参加します。
 INTECOLは、1967年に設立され、現在、世界各地に1300人の会員を持ち、32の各国の生態学会と7つの生態学関連の国際的組織が加盟しているそうです。国際大会は4年に1度開かれ、1998年にイタリアのフィレンツェで開催された大会では、70ヶ国から2200人の参加者があったとのことです。今回は、アジアでの開催であることから、日本や台湾など韓国の近隣諸国からの参加者が多いようです。
 日本でもそうなのですが、INTECOLにおいても水圏生態学の参加者は陸圏の植物・動物の生態学の参加者に比べて少ないのが現状です。これは、水圏生態学者の多くは、自らの活動の場を海洋学会や陸水学会に求めているからのようです。しかし、今回のINTECOLは水圏生態学者もその存在をアピールする良いチャンスとなるでしょう。実際、日韓共同でシンポジウムを企画している韓国のある水圏生態学者は、「今度のINTECOLで、韓日の水圏生態学がいかにactiveであるかを、陸上生態学の連中に見せてやる!」と意気込んでいます。ポスト・ワールドカップの熱いソウルに、乞う御期待!        (中野伸一)
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編集後記

 :今号では、沖縄県の泡瀬干潟埋め立て事業に絡む問題点について、当センター・生態系解析分野の金本氏に報告していただきました。この報告を読むと、事業者がいかにメチャクチャなやり方で埋め立てを強行しようとしているかがよくわかります。生態系解析分野の鈴木氏には最新の研究成果として、地底微生物のメタン代謝について報告していただきました。当ニュースでは今後も時事問題や最新の研究成果をお届けしたいと考えています。(岩田久人)