はじめに

沿岸環境科学研究センター(Center for Marine Environmental Studies、CMES)は、沿岸域の環境や生態系の研究、外洋や陸域も含めた広汎な化学汚染の研究、ヒト・動物・環境の健康を包括的に守るワンヘルス研究を三本の柱として、関連する多様な分野の研究を学際的かつ機動的に推進している組織です。そのルーツは、1980年代半ばからの宇和海の漁場環境研究に遡ります。地元の漁協からの依頼によって始まったこの研究には、理、工、農学部から専門分野を異にするメンバーが参画し、地域の海の諸現象の解明や、1999年に水産庁によって制定された「持続的養殖生産確報法」の基礎となる養殖適正化の概念創出などの多くの成果を生み出しました。また、1980年代末にはこれらのメンバーが連携してインドの農薬汚染調査を行い、熱帯域で使用された農薬によるグローバル汚染の解明につながる重要な成果をあげました。このような学際的連携による環境研究の伝統と、多様化、深刻化する環境問題への対処という社会的要請を背景に、愛媛大学の研究の個性化、重点化戦略の一環として1999年にCMESが設立されました。その後CMESは、文部科学省の21世紀COEプログラム、およびグローバルCOEプログラムに採択されて重点的支援を受け、特徴ある環境科学の研究拠点として成長してきました。また、この間に生物環境試料バンク(Environmental Specimen Bank, es-BANK)を付属施設として立ち上げ、世界的に見てもユニークで貴重な環境研究の基盤を築きました。さらに、es-BANKにある世界各所から収集した試料、調査実習船「いさな」および先端分析機器をコミュニティーに有効利用してもらうため、2016年に文部科学省より全国共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」の認定を受けました。CMES独自のアジア研究者ネットワークを活かした拠点活動により「アジアの環境研究拠点」としての役割を果たし、2021年にLaMerは共同利用・共同研究拠点の再認定を受けました。今後、化学汚染・沿岸環境研究を推進するとともに、新分野創成・異分野融合研究やアジア環境問題共同研究を展開することより、さらなる発展を目指しています。

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沿革

1984年 宇和島市遊子漁協の依頼による宇和海漁場環境の研究開始
1988年 インドにおける農薬汚染の研究開始
1999年 CMES設立(研究分野:環境動態、生態環境計測、生態系解析、環境影響評価予測、付属施設:中島マリンステーション)
2002年 21世紀COEプログラムに採択(2006まで)
2002年 es-BANK組織設立
2004年 生態毒性解析分野を増設
2005年 es-BANK棟竣工
2006年 中島マリンステーション廃止
2007年 グローバルCOEプログラムに採択(2011まで)
2008年 調査実習船「いさな」新造
2009年 5分野を4部門(環境動態、化学汚染・毒性解析、生態系解析、国際・社会連携)に再編
2012年 卓越した大学院拠点形成支援に採択(2013まで)
2015年 兼任教員を配置
2016年 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」認定(2021まで)
2021年 「生態系解析部門」を「生態・保健科学部門」に、「国際・社会連携部門」を「国際・社会連携室」に改組
2022年 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」2回目認定(2027まで)