ー沿岸海洋環境研究を開拓するー 調査実習船「いさな」
本船は平成20年3月19日、CMES調査実習船「とびうお」にかわり就航いたしました。
「いさな」と命名され、万葉集において「いさなとり〜」として使われていた鯨古来の呼び名を由来としています。「いさな」の船体は、小型ながら幅が広く、船首寄りに大きくつくられたキャビンと相まって鯨を彷彿とさせます。
設計にあたっては、「より多くのデータ採取」、「正確なポジションへの到達と維持」、「安全性の確保」の3点に重点が置かれました。
航行区域は、限定沿海と沿岸の2 種類を取得しており、瀬戸内海のほぼ全域と豊後水道および日本全国の海岸線から5 海里以内を航行可能です。
推進方式は、2機2軸。バウスラスターを加えると3 軸の推進機を持ち、狭い港湾内での取り回しや速い潮流上での位置・低速航路保持を容易にしています。最高速度27kn/h、巡航速度20kn/h
の設計により、荒天からの回避および迅速な調査地点への到達を可能にしました。また、 プロペラピッチを浅くすることによって加速性能を向上、多点かつ近距離の調査地点間移動を迅速に、エンジンに負担を与えることなく行える設計です。
船体はGFRP(ガラス繊維強化樹脂)製。造船所は、国内外において多数の業務用ダイビングボート建造実績と高い評価を持つ(有)前川造船工業。前川造船は、漁船の建造技術を生かしつつダイビングボートを製作する特徴を持つ。 本船もこの技術が生かされており、船体はキール(竜骨)とフレーム(肋骨)によって十分な補強が為されている。また、船首は先端が鋭角となり、波切がよい。漁船の堅牢性を備えつつも甲板およびキャビンはフラットに設計され、作業性と安全性を兼ね備える。また、甲板部は広くとられており大型観測機材の運用を可能としている。
定員は32名で、各種実習や乗船体験にも利用できる。
ヤンマー社製6 気筒直噴ディーゼルターボエンジン(最高出力450 馬力)を2機備え、2つの推進軸を独立に稼働する。 本学における調査研究では寄港しながらの長期間航行も行われており、様々な港を利用する。
したがって、小さな港を利用する場合、入出港に困難を来す事があるが、2 軸の操作により、その場回頭を可能とし狭い港湾内での離着岸を可能にしている。
これにより、利用可能な港の選択肢が多くなり、航行計画の効率化が可能となる。また、エンジントラブルが起こった際に残った1 機のエンジンで航行が可能であり、安全性も高い。
観測機材投入時は、サテライトコンパスとスラスターパイロットが連動して船の向きを自動で保つことができる。これによって風浪の影響を最小限に減らすことができる。またフライングブリッジから機材を目視しながらリモコンによる操船を行うことによって、機材を可能な限り垂直に投入することも可能である。
DGPSと連動した自動航行によって、設定した観測ラインを正確ににトレースできる。加えて、スロークラッチによって微速での航行が可能であるため音響探査やネット引きでの運用範囲が広い。
本船には船底にADCP(音響ドップラー流速計)、計量魚群探知機、水温計を設置している。またブリッジには風向風速計、温湿度計(百葉箱に収納)が設置されている。これらのデータは、位置情報と共にPCに毎秒記録されている。
デッキには、左舷に2機のローラーデリック(耐荷重80kg)と船尾にAフレームクレーン(高さ3m、耐荷重500kg)とウインチ(8mmロープ400m、耐荷重180kgもしくは14mmロープ200m、耐荷重500kg)を装備する。これらによってプランクトンネットやCTD、採泥器、コアラー、採水器などの機材を運用可能となっている。
CMESではスミスマッキンタイヤ採泥器、多筒式CTD蛍光度計付採水器(3L ×10本)、PAR+CTD、小型ROV、各種コアラーを保有しており、これらを「いさな」で運用可能となっている。
清水は500Lあり、機材の洗浄が可能である。また電動式海水ポンプを搭載しており、洗浄や掛け流しによる航行しながらの連続観測にも対応する。
大型船との衝突を防止するためにAIS(船舶自動識別装置)および緊急時における救難連絡のために国際VHF無線機(25W ) を搭載する。また遭難時にはEPRIB(非常用位置指示無線標識装置)が作動し、海上保安部に衛星経由で遭難信号を発信する。加えて自動膨張式救命筏を搭載し、漂流に耐えることが可能である。その際に救助艇および周辺の船舶と通信するための携帯式VHF無線機も搭載している。
本船は、操船および航法の多くを電気信号によって制御している。したがって、ワイヤーケーブルや油圧の直接作動による補助手段は用意しているが、電気系統のトラブルはある程度の深刻な事態をもたらす。そのため、電気系統には3 重のバックアップが取られている。本船には、主機それぞれおよび計器・作動用に計3 つのバッテリーが設置されており、これらのいずれかが故障しても、残った1 つのバッテリーですべてが作動するように設計されている。また、発電用補機(AC100V, 出力10kw)も設置しており、内蔵・外付け機器に対して安定した電源を確保している。
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